忍ぶ川


1972年5月25日公開、俳優座作品、東宝配給
監督:熊井啓 脚本:長谷部慶次、熊井啓 音楽:松村禎三 美術:木村威夫
出演:加藤剛、栗原小巻、信欣三、瀧花久子、岩崎加根子、井川比佐志、永田靖、ほか

お父さん、見える? ねぇ、見える? お父さん。


生と死を見つめた純愛映画の至宝
(まだ観てない人のために)

 原作は、1960年に芥川賞を受賞した三浦哲郎(みうら てつお、1931年3月16日-2010年8月29日)による自伝的な小説である。
 純愛映画として語られることが多い本作であるが、生命の連鎖としてのセックスの位置づけも明確に表現されており、社会派と云われた熊井啓(くまい けい、1930年6月1日-2007年5月23日)らしい作品に仕上がっている。本作は、公開時、ヒロインの美しさなどが話題になり、キネマ旬報第1位に選ばれた人気作品である。また、あえてモノクロ・フィルム、スタンダード・サイズを採用し、その抑えた画面効果によって、親密で、内省的な世界を描いている。本作は、映画館よりも、自宅のあまり大きくないモニターで観るのが良いのかもしれない。
 脚本に参加している長谷部慶次(はせべ けいじ、1914年10月8日-???)は、今村昌平監督の『神々の深き欲望』(1968年)の脚本にも関わった人であり、その原色を使った鮮烈な作品と比較すると意外な感じがしたが、じっくりと観てみると納得させられる部分が多々あった。
 松村禎三(まつむら ていぞう、1929年1月15日-2007年8月6日)の繊細な音楽も素晴らしく、ギター、ハープ、マリンバなど音が減衰する楽器の響きが生命の儚さをを感じさせるのである。音楽が分かる人ならば、オープニングから、ただならぬ世界を予感するはずである。また、静かに燃え上がるクライマックスの高揚感も比類ない。
 かぐや姫『神田川』のリリースが1973年であるから、制作された頃には、すでに同棲するカップルが多くいたようである。『忍ぶ川』は、1950年代、処女性が尊ばれた時代の恋愛と結婚を通して、暗い宿命と闘った愛の姿を描ききった、現代においてすら普遍的な価値を持つ作品である。軽い遊びで恋愛をする人には無縁の厳粛な物語なのだ。大切な人がいたり、いなかったり(探してたり)、また、結婚について考えている人に、ぜひ観ていただきたい。また、宮崎駿の脚本・絵コンテによる『耳をすませば』(1995年)を観て感動した人にも、ぜひ観ていただきたい。何故なら、『耳をすませば』の「甘い部分」がよく見え、それによって、「本当の良い部分」も分かるからである。
 余談であるが、コンビニ、カラオケ、書店、スーパーなどに連日通って、自分にとっての志乃(本作のヒロインの名)を探している、酒は呑まない、わたにゃんである。


本作を観るために

 DVDで販売されている。有名な作品なので、レンタルもあるようだ。修復されているらしく、画像はきれいである。


忍ぶ川
☆わたにゃん所有のDVD
国内版DVD
忍ぶ川
モノクロ、120分、片面・2層
モノラル、日本語字幕、スタンダードサイズ
発売日:2004年10月29日
発売元:東宝株式会社
価格:4725円(税込)
型番:TDV2971D
(収録内容)
 本編
 特典映像
  劇場予告篇

HMVジャパン →HMVでチェック♪ (DVD)icon
→HMVでチェック♪ (原作小説)icon

 ご意見、ご感想は watahme@momonahn.egoism.jp まで(メールアドレスは半角で)。