耳をすませば (核心)


1995年7月15日公開、東宝配給
監督:近藤喜文 脚本・絵コンテ・プロデューサー:宮崎駿 音楽:野見祐二
出演:本名陽子、高橋一生、小林桂樹、立花隆、室井滋、
佳山麻衣子、中島義実、山下容莉枝、露口茂、ほか

そう。荒々しくて、率直で、未完成で、聖司のヴァイオリンのようだ。


時間をかけて磨いてゆくもの
(まじめにレヴュー:{}内は、わたにゃんの解釈)

 『Take Me Home, Country Roads』が静かに始まる。東京の夜景。{ 本作は、東京の夜で始まり、朝で終るのが面白い。} タイトル『耳をすませば』。車の走る音と歌。舞台となる地球屋やムーンが登場する。ファミリーマートから出てくる雫。団地の自宅に帰る雫。
 「またビニール袋? 牛乳一本なのに。」と、勉強中の お母さん。{ 実名でファミマを出し、批判する意図が分からない。} 「我が図書館もついにバーコード化するんだよ。準備に大騒ぎさ。」と、麦茶を呑む お父さん。カードの方が好きだと雫。何気なく貸出カードを見て、天沢聖司の名前に気づく。やさしい音楽が流れ始める。自分の部屋に戻ると、他の本のカードにも、同じ名前があった。「すごい、この人。みんなあたしより先に借りてる。」と雫。{ 心の声ではなく、発声してる。} 「天沢聖司。どんな人だろぉ。ステキな人かしら。」 静かに盛り上がる音楽。3枚の貸出カードから浮かび上がり、一つに融合する天沢聖司の文字。
 朝。出かける お母さんに起こされる雫。親友の夕子と会う約束を思い出し、あわてる雫。財布を探しに戻ってきた お母さん。財布を見つけ、あわてて出てゆく。「そこつ~。」と雫。窓から、飛行船を見る雫。「わ~、ずいぶん低い!」 { かなり特殊な感性を感じさせる、妙な台詞。} 「今日は、いい事ありそう。」と、戸締りし、出かける雫。セミが鳴いている。強い日差しの中を歩く雫。吠える狂犬を挑発しながら、小径(こみち)を通り抜け、学校へ。
 木洩れ日を受けながら、部活の練習中の友達にアイサツし、保健室へ。保健婦の高坂先生にお願いして、図書室を開けてもらう。休み中に20冊読むと言う雫。「月島は、仮にも受験生なんだよ。」と高坂先生。私立図書館にもないレアな本に、寄贈印で消された「天澤蔵書」の印を見つける。気になる雫。怒りながら、夕子登場。また、ソバカスが増えると、雫を責める。
 木陰のベンチに座る雫と夕子。カバンから原稿を取り出す雫。「白い雲わく丘を 巻いて上る 坂の町。古い部屋、小さな窓、帰り待つ老いた犬。」 夕子の朗読が、しだいに二人の歌となる。「カントリーロード、遥かなる 故郷へ 続く道。ウェストジーニァー、母なる山、懐かしい我が町。」 歌い終え、「悪くないよ。」と夕子。「ダメだ。ありきたり。」と、苦い表情の雫。「こんなのも作った。」と、原稿を渡す雫。「コンクリートロード、どこまでも 森をきり 谷をうめ ウェスト東京、マウントタマ ふるさとは コンクリートロード。」 うけまくる二人。「で、何よ、相談って?」と雫。「雫、好きな人いる?」と、赤面する夕子。「え?」と、首を振る雫。両思いの人と励ましあって、受験をがんばりたいと言う夕子。{ 恋をする季節に、受験があることが、数々の悲劇を生んでる気がする。} ラブレターをもらったと言う夕子に、「つき合ってみたら? それでイヤなら断る。」と雫。ノリ気でない夕子に、「さては、他に好きな人いるんでしょ。」と、挑発する雫。「ほぉれ、白状しちゃえ。」と言われ、「す、す、」と夕子。その時、雫を呼ぶ杉村の声。「月島~。オレのバッグ、取ってくれるぅ。」 トキメいて立ち上がり、後ろを向いてしまう夕子。そして、逃げ出す夕子。ネット越しにバッグを投げ、本を忘れたまま、夕子を追う雫。
 帰り道の雫と夕子。「杉村だったのか、夕子が好きな人って。」と雫。「どうしよう、分かっちゃったかも知れない、わたし、あんな……。」と夕子。「大丈夫だって、あいつ鈍いから。」と、お気楽な雫。「(ラブレターの件は、)もう少しひとりで考えてみる。」と夕子。本を忘れたことに気づき、ひとり、学校へ戻る雫。
 部活の練習は終り、男子生徒(以下、男)がベンチで本を読んでいる。{ 緊張感が漂う。} 雫に気づいた男。「そ、その本…。」と、何やら動揺してる雫。「ああ、これ、あんたのか。」と男。うなづく雫。「ほらよ、月島雫。」と、本を手渡して去る男。「名前、どうして?」と雫。「さて、どうしてでしょう?」と、不敵な笑みを浮かべる男。「あ、図書カード…。」と雫。「お前さぁ、コンクリートロードはやめた方がいいと思うよ。」と、挑発して去る男。「フルサトハ、コンクリートロード」と言う妙な歌が入る。「読んだなぁ!」と、怒り出す雫。「やなヤツ、やなヤツ、やなヤツ。」と、怒りながら帰る雫。
 自分の部屋で、『コンクリートロード』の原稿を丸めて捨てても、まだ怒りが収まらない。冷蔵庫の麦茶をがぶ飲み。「コンクリートロードはやめた方がいいぜ。」と、引きつった顔で{ 微妙に間違えて }復唱し、「何よっ!」と冷蔵庫を激しく閉める。妙な歌が終わる。部屋に戻って、本を読み始める雫。
 涙を浮かべながら本を読み、お菓子を食べる雫。旅行に行ってた お姉ちゃんが帰宅。誰かの車に乗せてもらって、帰ってきたらしい。散らかってるのをとがめられる雫。「お母さん大変だから、応援しようって決めたでしょ。」と お姉ちゃん。料理を作る二人。「おばさんが高校生になったら、雫も来いって。」 { おばさんが高校生になるらしい。} 「うちの親は何もかまわないからって安心してると、ひどいことになるからね。」と お姉ちゃん。
 ビールで乾杯する、お父さん、お母さん、お姉ちゃん。隣りの部屋で、勉強する雫。集中できず、本を読む。
 朝。お姉ちゃんに起こされる雫。「お母さんは?」と雫。「とっくにイッた。」と お姉ちゃん。お父さんに、お弁当を届けることになる雫。お姉ちゃんは、ひとりで家事を引き受けるのだ。出かける雫に、階段の踊り場から手紙を投げる姉。受け止めて、「彼氏?」と、冷やかす雫。「バカ。」と お姉ちゃん。{ 大事な手紙を投げるかね ( ゚∀。) この会話は、いかにも宮崎駿タッチ。}
 「向原駅」。{ 架空の駅らしい。} ポストに手紙を出す雫。電車が来て、{ よく見ると、}猫が乗りこむ。雫も乗る。電車が走り出し、固まる雫。{ 本作は、登場人物が不自然に固まって見えることがある。} 走る電車の両側の景色が流れる。{ 3DCGではないが、かなり見事な空間の表現。} 猫に気づく雫。雫の隣りの座席に上がり、窓の外を見ている猫。一瞬、驚くが、「ネコくん、ひとり?」と、話しかける雫。「どこまで行くの?」 「外、面白い?」 シカトする猫。「お~い、答えてよ。」と雫。妙な音楽が始まる。
 雫が降りる駅で、猫も降りる。追いかける雫。「京玉線 杉の宮駅」。{ 架空の駅。モデルがあるらしいが、重要なことではない。} 図書館の方へ行く猫。追いかける雫だが、赤信号につかまり、猫を見失う。「あ~あ、せっかく物語が始まりそうだったのに。」と雫。図書館の階段を上る、ミニスカートの雫。{ 見えそうで見えナいぱんちゅ。} 下方に、塀の上を歩く猫を発見。立入禁止を無視して、図書館の裏から追いかける雫。塀を乗り越える時、落としてしまう お父さんの お弁当。真剣な表情で、狭い路地を進む雫。上り坂になってる。{ コカコーラの空き缶には、批判的な意図があるのか??? } 住宅地に出る。一瞬、猫を見失うが、また見つける。猫を追いながら走る雫。「ネコくん、どこ行くの? この辺にすんでるの?」と雫。ほのぼのとした音楽が流れてる。また、猫を見失う。{ 見つけたり見失ったり、雫とともにドキドキさせられるのが秀逸な演出。} 「丘の上に、こんなところ(高級住宅地)があるなんて、知らなかった。」と雫。猫が犬をからかって回ってることを知り、あきれる雫。「う~ん、あたしのことをからかってるのかも。」と雫。{ 何気なく、味のある台詞。} 一軒の家の奥に消える猫。玄関に猪(?)の置物。家に侵入する雫。いろいろなオブジェが並んでる。ハープの音が聞こえてくる。「こんなお店が丘の上にあるなんて、知らなかった。」 テーブルの上に猫の人形を見つけた雫。「あなたは、さっきの猫くん?」 笑う人形。幻覚を否定する雫。「やあ、いらっしゃい。」と おじいさん。「自由に見てやってください。男爵も退屈してるから。」 「男爵って、このお人形の名前ですか。」 「そう。フンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵。すごい名でしょう。」 { 後半では、「バロン」と呼んでるのだが…。} 踏み台に乗って、大きな時計の調整を始めるおじいさん。動き出す時計。音楽がなり始める。「よくできてる。ドワーフですね。」 「よぉくご存知だ。そうか、お嬢さんはドワーフを知ってる人なんだね。」 文字盤のからくりが起動する。「VIII」の文字が王様の顔になり、ヒツジがエルフになる。淋しげで美しい音楽が始まる。「ガラスが光るね。ここへ来なさい。」と、上ずった声のおじいさん。「はい。」と、踏み台にのる雫。{ 以下、何だか年の離れた恋人同士のような雰囲気。} 「王女さま?」 「そうだね。」 「二人は愛し合ってるの?」 「うん。しかし、住む世界が違うんだ。彼はドワーフの王だからね。12時の鐘を打つ間だけ、彼女はヒツジから元の世界へ戻れるんだよ。それでも、彼は時を刻むごとに、ああして現れて、王女を待ちつづけるんだ。きっと、この時計を作った職人が、届かぬ恋をしていたんだよ。」 「それで二人とも、何だか悲しそうなのね。」 { 序盤戦で、恋の本質的な困難さを語るのは、許されざる恋をして入水した姉のことを告白する『忍ぶ川』に似ている。} 時計の針が動き、お弁当のことを思い出した雫。走り去るが、「おじいさん、また来ていいですか?」 「ああ、図書館なら、左行った方がいいよ。」 走る雫。「天守の丘」の看板。「わあ、図書館の真上。」 急な階段を駆け下りる雫。{ この階段は、リアリティを超えた、一種のファンタジーである。} 「いいとこ見つけちゃった。物語に出てくるお店みたい。」 ターンをしながら道路に飛び出す雫。「月島~。月島雫。」 誰かが呼ぶ。この前の男が自転車でやって来た。後ろには、さっきの猫が乗っている。「これ、お前んだろ?」と、お弁当をさし出す男。「忘れっぽいんだな。」 「ありがとう。でも、どうして?」 「さて、どうしてでしょう。」 「その猫、君の?」 「お前の弁当、ずいぶんデカいのな。」 「ちがうっ。」 「コンクリートロード、どこまでも~」と、歌いながら走り去る男。一瞬、前出の「コンクリートロード」と歌う妙な音楽が流れ、怒鳴る雫。
 図書館で、お父さんにお弁当を渡す、晦渋な表情の雫。「とてもいいことがあって、洞窟で宝物を見つけた感じだったの。それが、心ない一言で、生き埋めになった気分!」 お父さんと別れ、貸出カードを調べる雫。また、天沢聖司の名を見つける。「すごい、天沢って人、この本も読んじゃってる。どんな人なんだろう?」 『コンクリートロード』の歌が流れ、不敵な笑みを浮かべる、さっきの男を思い出す。「ちがう、お前なんかじゃない!」と、怒鳴る雫。驚く、利用者たち。赤面し、本を読んでるフリをする雫。叙情的な音楽が流れ、そよ風の中を帰る雫。雲が流れている。遠くの雲は灰色で、夕立ちなのかも知れない。{ 印象的な都会の自然の描写。}
 雨。お母さんと出かける制服の雫。9月か。{ 雫が、玄関で靴を履きながら揺れて見えるのが面白い。} 「しっかり勉強しなさい。」と雫。「まかしといて~。」と お母さん。夕子と合流した雫。毎日、なんかかんか、テストがあるらしい。ラブレターを断ると言う夕子。テストが終わって、昼休み。「月島、聞いて聞いて。」と、杉村がやって来る。「休み時間に見たところが、そのままドンピシャだぜ d(⌒o⌒)b」と杉村。「ヤマ張りなら、夕子、得意だよね。今度、一緒に勉強したら。」と、{ イヤらしい笑いを浮かべて、}仕掛ける雫。雫と教室を出てから、「無理やりくっつけようとしないで!」と、切れる夕子。
 職員室で、年配の先生に「天澤蔵書」のことを聞く雫。「これぼくも読んだよ、いい本でしょ。」と先生。「月島、同じ学年に天沢さんとこの末っ子がいるじゃないか。知らないのか?」と若い先生。驚き、礼を言って走り去る雫。追いかける夕子。渡り廊下で、例の男とスレ違う。頭を下げる雫だが、シカトする男。{ 一緒に歩いてるのは、オヤジか??? 男は、雫のことより、進路のことに夢中のようだ。} 「アイツ、やなヤツなの。逃げるのやじゃない。」と雫。{ ちょっと分かりにくい心理。}
 保健室で、友だちと弁当を食べる雫。「月島に男がね。」と高坂先生。「本当は、本の王子様に会ったんでしょ。」とヘアバンド。否定する雫。話を最後まで聞かずに飛び出した雫をからかう友達。「揺れる心が、苦しくて、嬉しい。」とヘアバンド。{ 「苦しくて、嬉しい。」と言う感覚が分からない。あの難解な「切ないけれどよかった」と言う歌に似てるな。} 「まあ。ロマンチックですこと。」とメガネ。が、満を持して『カントリー・ロード』の訳詞をくり出す雫。「できたの?」と夕子。「見せて見せて。」とヘアバンド。メガネは台詞ナシ。じらす雫に、みんなで頭を垂れ、「雫さま、大詩人さま、もうしませんのでお見せください。」と夕子。「よろしい。本当は自信ないんだ。故郷って何か、やっぱり分からないから、正直に自分の気持ちで書いたの。」と雫。「過激ね、これ。」とヘアバンド。「カントリーロード、この道、ずっとゆけば、あの町に続いてる気がする。カントリーロード。」とみんなで歌う。赤面している雫。「雫、いいよ、私好き。」と夕子。「ここいいな。ひとりで生きると、何も持たず、町をとび出した。淋しさ押し込めて、強い自分を守っていた。」とヘアバンド。チャイムが鳴り、「諸君、予鈴だよ。」と高坂先生。
 放課後。「晴れた晴れた。」と、伸びをする雫。夕子たちにコーラス部に寄って行こうと誘われる。無言で手招くメガネ。が、図書館へ行くと言って、断る雫。高台の道を歩いて行く雫。ふと、上の方の道へ。
 夕子を待ってた杉村。「原田。あのさ、悪いんだけど、ちょっといいかな。」と杉村。赤面して、うなずく夕子。
 この前の お店に来た雫だが、閉まっている。中をのぞき、「男爵がいないわ。買われちゃったのかしら。」と雫。看板には、「アトリエ 地球屋 西司朗」とある。「あいつも西って言うのかな?」 { すでに、あの男を意識している。} 通りすぎた自転車に驚く雫。ため息をついて、歩き出す雫。{ 物語が始まることを期待してるようだ。}
 ヘッドフォンで音楽を聴きながら、勉強してる雫。ヘッドフォンを引きはがし、「夕子ちゃんから電話!」と、下から光を浴びて、怖い顔の お姉ちゃん。「今すぐ行くから。うん。じゃ、切るよ。」と、深刻な表情の雫。
 「どうしたのよ、何、その顔。」と雫。「雫、どうしよう。杉村が、友だちに頼まれて、あの手紙の返事くれぇって。」と、泣く夕子。「えっ、あちゃぁ。」と雫。
 回想シーン。「何で、杉村がそんなこと言うのよ!」と、杉村に怒鳴り、走り出す夕子。
 ベンチに座る夕子と雫。とぼけた音楽が流れ始める。「あいつ、鈍いからなぁ。でもさ、杉村だって、夕子の気持ち知ってる訳じゃないし。」と雫。「杉村には、謝る。でも、こんな顔じゃガッコ行けないから、明日は休むね。」と夕子。
 テスト中。すこし活気が出てくるが、相変わらず、とぼけた音楽。夕子は休み。杉村に、聞こえない声で、「バカ。」と言う雫。「何だよ。」と、返す杉村。
 放課後。杉村に呼び止められる。「原田のことなんだけど…。」と杉村。神社の木陰。{ 木洩れ日の表現が見事。} ミンミンゼミが鳴いている。「そしたらさあ、原田のやつ、急に泣き出して…。なあ、おれ、何か悪いこと言ったかな。」 「杉村さ。夕子は、あんたがどうしてそんなこと言うのって言ったんでしょ。」 「うん。だから、野球部の友達に頼まれたって。」 「違うゥ。それって、杉村にはそんなこと言われたくないってことよ。この意味分かるでしょ。」 「分かんないよ。ハッキリ言ってよ。」 「もぉ、本当に鈍いわね。夕子はね、あんたのことが好きなのよ。」 「えっ。(赤面) そんな、おれ、困るよ。」 「困るって、かわいそうなのは夕子よ。ショック受けて、休んじゃったんだから。」 「だ、だって、おれ…。おれ、お前が好きなんだ。」 「えっ。」 激しく赤面し、恐怖を感じる雫。「やだ、こんな時、冗談言わないで。」 「冗談じゃないよ。ずっと前から、お前のことが好きだったんだ。」 肉迫する杉村。「だめだよ、あたしは。だって、そんな…。」 「おれのこと嫌いか? つき合ってるヤツがいるのか?」 「つき合ってる人なんかいないよ。でも…。」 逃げ出す雫。「ごめん。」 「待てよ。」 雫の腕をつかむ杉村。「月島、ハッキリ言え!」 「だって、ずっと友だちだったから、杉村のこと好きだけど、好きとか、そう言うんじゃ…。ごめん、上手く言えない。」 赤面しながらも、苦しげな雫。{ 絶妙な間。} 「ただの友だちか?」 うなづく雫。ひぐらしが鳴いている。「これからもか?」 うなづく雫。「そうか…。」 手を離す杉村。スポーツバッグを拾って、立ち去る杉村。ひぐらしの声。取り残される雫。{ 夕方になった訳ではないが、杉村が散った辺りから、ミンミンゼミの声が消えて、ひぐらしの声となり、世の多くの恋が甘受する「あっ気なさ」を表現している。演出も見事で、「青春映画」らしい屈指の名場面となった。}
 帰り道、雫を責めるように吠える、例の赤い眼の狂犬。
 家に帰った雫。机の上の本を落とし、「バカ、鈍いのは自分じゃないか。」 うつ伏し、震える雫。
 しばらくして、お母さんが帰ってきた。右の頬に、何かの痕をつけたまま起き上がり、制服を脱ぎ始める雫。{ おっ (〃ノ∇ノ) } が、痛恨の画面転換 (ノд`) 玄関前の近所の おばさんと お母さん。話しかける お母さんをシカトし、去る雫。{ お父さんには、一目置いてる雫だが、お母さんには、タメ口&シカト ( ̄□ ̄;) }
 電車が走っている。ほのぼの音楽。虚ろな表情で、揺られる雫。丘の上へ、階段を上って行く雫。地球屋に着いたが、また閉まっていた。肩を落とし、泣き出しそうな雫。この前の猫があらわれた。「やっほぉ、君もしめだされたの? 君はこの家で飼われてるの? お腹へってない?」 シカトする猫。「君もかわいくないね。あたしそっくり。」 { ぱんちゅが見えないよぉ注意しながら、}座る雫。「どうして変わっちゃうんだろうね。わたしだって、前は、ずっと素直でやさしい子だったのに。本を読んでもね、この頃、前みたいにわくわくしないんだ。こんな風にさ、上手くいきっこないって、心の中で、すぐ誰かが言うんだよね。かわいくないよね。」 { 秀逸な独白。} 自転車の男があらわれた。雫に気づく男。「へぇ、月島か。」 「あっ。」 「よくムーンが触らせたな。」 去る、デブ猫ムーン。ムーンの話をする二人。少しロマンティックな音楽が流れ始める。「そっか、ムーンは電車で通勤してるのね。」 「電車?」 「そうなの、ひとりで電車に乗ってたの。それで、後をつけたら、ここへ来てしまったの。そしたら、ステキなお店があるでしょ。物語の中みたいで、ドキドキしちゃった。」 圧倒され、少し赤面してる男。{ ムーンを追いかけなかったら、聖司と接点を持つことはなかっただろう。だが、これは「奇蹟」ではなく、「偶然」なのだ。つまり、人ごみに石を投げれば、たいてい誰かに当たるのと同じ。この物語が始まらなければ、いつか別の物語が始まるのだ。奇蹟ではない。} 「悪いこと言っちゃったな。ムーンに、お前かわいくないねって言っちゃった。あたしそっくりだって。」 「ムーンがお前と? 全然、似てないよ。あいつは、もう半分、化け猫だよ。」 赤面して、視線をそらし合う二人。沈黙。話そうとして、ぶつかり合う二人の台詞。一瞬だまる二人。{ 二人が意識し始めた訳だが、やや焦点が甘い印象を受ける。あくまで、印象だが…。} 「おじいさん、元気?」と雫。「ずうっと、お店、お休みだから、元気かなって。」 「ピンピンしてるよ。この店、ヘンな店だから、開いてる方が少ないんだ。」 「そうなの、良かった。窓からのぞいたら、男爵が見えないんで、売れちゃったのかなって。」 「ああ、あの猫の人形か。見る? 来いよ。」 横のドアから入る二人。「ドア閉めて。」と{ 命令する }男。{ 階段を先に降り、下からチェックする男。} 眼下に広がる街を見て、「空に浮いてるみたい。」と感激し、「高いところ好き。ステキ。」と、気に入ってしまう雫。街を見る雫に、「この瞬間が一番キレイに見えるんだよ。こっち。」 { 「こっち」のタイミングが早いのは、急かしてるのか??? } 雫をつれ込む男。チェロのようなデザインのヴィオラ・ダ・ガンバがある。「ちょうどいいや。そこに座って。」と{ 命令する }男。この前の時計は、今日、届けに行ったらしい。男爵の人形を出す男。時計をもう一度見たかったと、雫。「三年がかりでさ、月島が弁当を忘れた日にできたんだよ。」 「あ、あのお弁当…。」 「分かってるよ、お前のじゃないことぐらい。ここへ来て、猫の眼の中を観てみな。」 { 上から目線の男にイラ立つ雫。} 「早くしろよ、光がなくなるぜ。」 光を浴びて、輝く人形の眼。解説する男。「男爵は無くならないよ、おじいちゃんの宝もんだもん。」 「宝物?」 「何か、思い出があるみたいなんだ。言わないけどね。好きなだけ見てていいよ、おれ、下にいるから。」 去る男。夕陽に照らされ、男爵に話しかける雫。「不思議ね。あなたのことをずっと先から知っていたような気がするの。時々、会いたくてたまらなくなるわ。」 { 男爵の恋人の人形の生まれ変わりが、雫なのか??? } 「今日は、何だか、とても悲しそう。」 { 恋人の生まれ変わりを見て、恋人の死を悟ったのかも。} しだいに窓からの光がなくなる。{ 妙に平凡で、くり出す意図が分からない }住宅地の眺め。ずっと男爵を見ていた雫。
 ヴァイオリンを作っている男。階下の工房におりてくる雫。「ああ、もういいの?」 「うん、ありがとう。ね、それもしかして、ヴァイオリン作ってるの?」 制作中の楽器を見せる男。感激する雫。解説する男。「すごいな、よくこんなの作れるね。まるで魔法みたい。」 「お前なぁ、よく恥ずかしいこと平気で言えるよな。」 「あら、いいじゃない。ホントにそう思ったんだから。」 { 何気に、宮崎駿節。} 「そのくらいのもん、誰でも作れるよ。まだ、全然ダメさ。」 ムッとするが、笑い出す雫。「ね、ヴァイオリン弾けるんでしょ。」 「まあね。」 「お願い、聴かせて! ちょっとでいいから。」 「あのなあ。」 「お願い、お願い。お願~い。」と、拝み倒す雫。「よぉし、そのかわり、お前歌えよ!」 「え、ダメよあたし、音痴だもん。」 「ちょうどいいじゃんか。」 ヴァイオリンを取り出し、チューニングなしで、バッハの「無伴奏ソナタ ト短調」の冒頭を弾く。{ かなり下手くそ。} で、別の曲を弾き始める。「歌えよ。知ってる曲だからさ。」 { あくまで、命令する男。} 「ひとりぼっち恐れずに、生きようと、夢みていた。淋しさ押し込めて、強い自分を守って行こう。」 { 一人ぼっちを恐れずに生きるのが「夢」なのか??? 何だか、ヘンな表現だ。逆に、「夢を追いかけるためなら、一人ぼっちでも恐くない。」と言うなら分かるが ( ゚∀。) わたにゃんは、この訳詞がよく分からない。} だんだん楽しくなってきた雫。「カントリーロード。この道。」 車で帰って来る おじいさんと仲間たち。「ずっとゆけば、あの町に続いてる気がする。カントリーロード。」 おじいさんたちが店に入って来る。「どんな淋しい時だって、決して涙は見せないで、心なしか歩調が早くなって行く。思い出、消すため。」 { 「思い出を消す」と言うのが分からない。聖司が雫と結ばれないまま、イタリアへ旅立ったら、雫の思い出を消すのであろうか??? 後の聖司は、この訳詞を気に入ってるようだが、そうだとすれば、物語と矛盾しているのである。} 楽器を持ってきた おじいさんたちと合奏になる。「カントリーロード。この道、故郷へ続いても、ぼくは、行かないさ、行けない。カントリーロード。」 低い声でハモる おじいさんとリュート弾き。「カントリーロード、明日は、いつものぼくさ。帰りたい、帰れない、さよなら、カントリーロード。」 { 修行が終るまで「帰らない」のか、死ぬまで「帰れない」のか。だが、「さよなら」と言う言葉は、やはり物語と矛盾してる気がする。「今だけ、さよなら。」と言う意味か??? 何か寓話的な意図があるのかも知れないが、わたにゃんには分からない。『カントリー・ロード』の歌詞と物語の関係は、実に難解なのだ ( ゚∀。) ちなみに、「ぼくを家に連れてって、カントリーロード」と歌うオリジナルの歌詞は、「帰らない」、「帰れない」とは言ってなくて、全く別物。オリジナルとは全く違う歌詞をもって、「訳詞」と言うのはどんなものか??? 「替え歌」と言うべきだと思うのだが。} 歌が終わり、今度は、手拍子を始める雫。激しくヴァイオリンを弾く男。{ その姿に、魅了され、心を開く雫。} 合奏が終わる。笑いあう雫たち。「月島雫です。この間はありがとうございました。」と、アイサツする雫。一礼し、「いや、お嬢さんには、また会いたいなあと思ってました。この二人は、ぼくの音楽仲間です。」と おじいさん。「聖司くんに、こんなかわいい友達がいたとはね。」とリュート弾き。「え、聖司? あなたもしかして、天沢聖司?」 「ああ。あれ、言ってなかったっけ、おれの名前。」 「言ってな~い。だって、表に、西って出てた。」 「あれはおじいちゃんの名前だよ。おれは、天沢。」 「ひどい、不意打ちだわ。洞窟の生き埋めよ。そらが落ちてきたみたい。」と、赤面しながら、{ 下手な }独白をする雫。「何、バカなこと言ってんだよ。名前なんて、どうだっていいじゃないか。」 「よくない! 自分はフルネームで呼び捨てにしておいて。」 驚いてるおじいさんたち。「お前が聞かないから、いけないんだろ?」 「聞く暇なんかなかったじゃない! ああ、天沢聖司って、あたし、てっきり…。」 「何だよ。」 「やさしい、静かな人だと思ってたの。」 「お前な、本の読みすぎだよ。」 「自分だって、いっぱい読んでるじゃない!」 大声で笑う おじいさんたち。
 星空の下を歩く、雫と聖司。おもちゃの楽器みたいな音楽。「ホントに楽しかった。みんないい人たちね。」 「また来いよ。じいちゃんたちよろこぶから。」 「聴くだけならな~。歌うのはつらいよ。でも、天沢くん、ヴァイオリン上手だね、そっちへ進むの?」 「おれくらいのヤツはたくさんいるよ。それよりおれさぁ、ヴァイオリン作りになりたいんだ。」 「そうか。もうあんなに上手だもんね。」 「イタリアのクレモーナにヴァイオリン製作学校があるんだよ。中学を出たら、そこへ行きたいんだ。」 「高校、行かないの?」 「家中が大反対。だから、まだどうなるか分からないけど、おじいちゃんだけが味方してくれてるんだ。」 車のライトに照らされる二人。「すごいね。もう進路を決めてるなんて。あたしなんか、全然、見当もつかない。毎日、何となく過ぎちゃうだけ。」 「おれだって、まだ行けるって決まっちゃいないんだぜ。毎日、親とケンカだもん。行けたとしても、本当に才能があるかどうか、やってみないと分からないもんな。」 { 才能が必要なのか? やる気だけじゃダメなのか? 何のための修行なのか??? } 何か、考え込む雫。
 雫の団地の近くに着く二人。神社がある。「送ってかなくていいの?」 「うん。もうそこだから。じゃあね。」 「あ、月島!」 「ん、何?」 頭だけ、左回りでふり向き、それから、右回りに全身でふり返る雫。「お前さ、詩の才能あるよ。さっき歌ったのもいいけど、おれ、コンクリートロードの方も好きだぜ。」 「何よ、この前はやめろって言ったくせに。」 「おれ、そんなこと言ったっけ?」 「言ったぁ。」 「そうか?」 「今日はありがとう。さよなら。」 走り去る雫。
 ベッドに横になってる雫。何か考えてる。お姉ちゃんが来て、上のベッドに。お姉ちゃんに、進路をいつ決めたか尋ねる雫。「それを探すために大学へ行ってるの。」と お姉ちゃん。
 雨の中を走っている雫。制服の上に、黄色いカーディガンを着ている。{ 残暑も終ったのか??? } 休講のお母さんが起きなかったせいで、遅刻寸前。走ってる杉村に会った。一緒に走り、アイサツもするが、何だか気まずい。「もっと速く走れ。」と杉村。「先行っていい。」と雫。走り去る杉村。遠ざかる杉村の{ 淋しげな }後ろ姿。
 運良く、1時間目は自習だった。「夕べ、よそのクラスの男の子と歩いてたって?」と、立ち直りの早い夕子。うわさになってるらしい。「恋人同士みたいだったって。」と夕子。「そんなんじゃないよ。」と雫。杉村がやって来た。気まずい雫。「原田、あのことだけど、おれの方から断っとく。ごめんな。」と、夕子に話しかけた杉村。「ううん、私こそ、ゴメンね。」と、赤面する夕子。「いいよ。」と、去る杉村。{ 夕子の気持ちを確認したのかも。} 暗い表情の雫。{ 何を思う??? 夕子の気持ちを確認した杉村への、つまり男と言う存在への疑問か??? 情報が少なくて、答えは出ないが、意味深な場面。}
 休み時間。聖司が雫のクラスを訪ねてきた。お調子者が「おい、月島、面会だぞ、男の。」と、大声で言う。みな驚く。反応する杉村。聖司を見て、赤面する雫。「月島、ちょっといいかな。」と聖司。「あ、はい!」と雫。お祭り騒ぎになるクラス。「何、いったい?」と、不機嫌な雫。「行けることになったんだ、イタリアに。」と聖司。「えっ…。あっち行こ。」と、歩き出す雫。二人は屋上へ。が、雨であった。屋根の下で話す二人。「だって、あんなにたくさん人がいるとこで、呼び出すんだもん。」と、怒っている雫。「悪い。一番先に、雫に教えたかったんだ。」と、{ 大事な話をする時に、ポケットに手を入れ、斜(はす)に構えた }聖司。目をみはり、赤面する雫。「…、誤解されるくらいかまわないけど。」と、しおらしくなる雫。「親父がやっと折れたんだよ。ただし、条件付きだけどね。」 「え、なぁに?」 しっとりとしたピアノ音楽が始まる。「じいちゃんの友だちが紹介してくれたアトリエで、2ヶ月、見習いをやるんだよ。」 「見習い?」 「その親方はとっても厳しい人なんで、見込みがあるかどうか見てくれるって。それに、おれ自身が我慢できるかどうかも分かるだろうってさ。」 黙って聞いている雫。「ダメだったら、おとなしく進学しろって言うんだ。おれ、そう言うの好きじゃないよ。逃げ道作っとくみたいで…。でも、チャンスだから行ってくる。」 「いつ、いつ行くの?」 「パスポートが取れ次第。学校とは、今日、親父と話をつけるんだ。」 「じゃあ、すぐなんだ。良かったね、夢がかなって。」 笑う雫。「ああ、とにかく、一生懸命にやってみる。」 聖司は嬉しそうだが、淋しげにうつむく雫。話そうとして、ぶつかり合う二人の台詞。照れて、ともに明後日の方向を見る二人。「雨、上がるぞ。」と聖司。「わあ、あそこ見て。」と、走り出す雫。弦楽器も入って、しだいに高揚していく音楽。「虹が出るかも知れない。」と雫。景色が流れる。「クレモーナってどんな町かな? ステキな町だといいね。」 「うん。古い町だって。ヴァイオリン作りの職人が、たくさん住んでるんだ。」 「すごいな。ぐんぐん夢に向かって進んで行って。あたしなんかバカみたい。聖司くんと同じ高校行けたらいいな、なんて (≧∇≦) てんでレベル低くて、イヤになっちゃうね (ノд`)」 その時、「いたぞ!」と、{ 宮崎駿の得意な }群集があらわれる。「おれ、図書カードで、ずっと前から、雫に気がついていたんだ。」 驚く雫。「図書館で何度もすれ違ったの知らないだろ。」 うなずく雫。赤面しながら続ける聖司。「隣りの席に座ったこともあるんだぞ。」 「ええっ。」 「おれ、お前より先に図書カードに名前書くため、ずいぶん本読んだんだからな。」 雲が流れている。赤面しつつ聖司を見る雫。「おれ、イタリアへ行ったら、お前のあの歌を歌ってがんばるからな。」 { あの歌を歌ったら、落ち込むような気がするが…。} 「わたしも…。」 声をふるわせ、涙を浮かべる雫。{ 何を言おうとしたのだろう。言わなくても分かるだろ、と省略したのかも知れぬが、鈍いので分からない。取りあえず、「わたしもがんばりたいんだけど、何をしたらいいのか分からないの。」と読んでおこう。} 「押すなバカ!」と、こぼれ落ちる群集。「こら~っ。」と、怒鳴る雫。「月島が怒った!」と、逃げ去る群集。{ 本作では、あまり違和感がないが、他の作品の、主人公の起こす奇蹟に注目する群集が嫌いだ。わざとらしいのだ。} 雫を激励しようと待機するヘアバンドとメガネだが、雫が泣きながら去ったので、驚く。授業中、何か考え、浮かぬ表情の雫。帰宅する雫の後ろ姿。
 食事をする月島家。食欲がなく、夕子と待ち合わせだと言って、去る雫。「この頃、てんでたるんでるんだから、あの子。」と お姉ちゃん。
 電車を降りる夕子。ファミリーマートで立ち読みする雫を見つける。夕子に気づく雫。夕子は、雫に呼び出され、塾をサボって、やって来たらしい。「もう、頭ぐじゃぐじゃ。」と雫。夕子の家を訪問する雫。父とケンカしてると言う夕子。高そうな家具やクッションがある夕子の部屋。「男の子って、すごいな~。」と夕子。「2ヶ月で帰ってきても、卒業したらすぐ戻って、10年くらいは向こうで修行するんだって。」と雫。「ほとんど生き別れじゃないっ。でもさ、こう言うのこそ、赤い糸って言うんじゃない? ステキだよ。」 「相手がカッコよすぎるよ。同じ本読んでたのに、かたっぽはそれだけでさ、かたっぽは、進路をとっくに決めてて、どんどん進んでっちゃうんだもん。」 「そうか~。そうよね。絹ちゃん、1年の時、同じクラスだったじゃない。天沢くんって、ちょっと取っつきにくいけど、ハンサムだし、勉強もできるって言ってたわ。」 「どうせですよ。そう、明らさまに言わないでよ。ますます落ち込んじゃう。」 「何で? 好きならいいじゃない。告白されたんでしょ。」 「それも自信なくなった。」 「は~。私、分かんない。私だったら、毎日手紙書いて、励ましたり、励まされたりするけどな。」 「自分よりずっとがんばってるヤツに、がんばれ、なんて言えないもん。」 「そうかな。雫の聞いてるとさ、相手とどうなりたいのか分からないよ。進路が決まってないと、恋もできないわけ?」 「……。」 「雫だって才能あるじゃない。『カントリー・ロード』の訳詞なんか、後輩たち、大喜びしてるもの。私と違って、自分のことはっきり言えるしさ。」 「それくらいのヤツ、たくさんいるよ。」 { この台詞を放つときの冷めた表情が印象的。} 「えっ。」 「ううん、あいつが言ったの。あいつは自分の才能を確かめに行くの。だったら、あたしも試してみる。」 驚く夕子。「決めた。あたし、物語を書く。書きたいものがあるの。あいつがやるなら、あたしもやってみる。」 明るい音楽が始まる。「でも、じき中間だよ。」 「いいの。夕子、ありがと。何だか力が沸いてきた。」 { 結局、雫が自分の問いに自分で答えた訳だが、夕子は化学反応を促進する役割をしたようだ。} 門のところで、「夕子もがんばってね。」 「うん。」 「夕子の良さ、きっと杉村にも分かるよ。」
 帰り道。「そうか。簡単なことなんだ。あたしもやればいいんだ。」 よその家で、ムタと呼ばれるムーンが眼の前を通過する。
 『耳をすませば』と言う物語を書き始めた雫。カメラが引いて行く。雫の部屋の窓は、巨大な団地の一つの窓なのだ。{ 文章を書いて生きて行こうとする人間はたくさんいる。容易な道ではない。だが、とにかく始めなければ、何も生まれない。}
 「ほ~、バロンを主人公に。」とおじいさん。許可をもらいに来た雫。「いいですとも。ただし、条件が一つある。ぼくを雫さんの物語の最初の読者にしてくれること。」と、ウインクするおじいさん。{ まるで、処女を捧げろと。おじいさんは、雫が好きなようだ。} 「あの…。」と、照れる雫。「どうですかな?」 「やっぱり見せなきゃダメですか? だって、ちゃんと書けるかどうか、まだ分からないから。」 「はっはっはっはっはっはっ。それは私たち職人も同じです。初めから完璧なんか期待してはいけない。そうだ、いいものを見せてあげようかな。」 { つぎの台詞に移るタイミングが、妙に速い。} 歩くおじいさん。「これこれ。見てご覧。」と、雫に石を手渡す。「雲母片岩と言う石なんだがね。その割れ目をのぞいてご覧。」 雫がのぞくと、おじいさんはペンライトで照らす。緑の石が輝く。「わぁ、きれい…。」 「緑柱石と言ってね。エメラルドの原石が含まれてるんだよ。」 「エメラルドって、宝石の?」 「そう。雫さんも、聖司も、その石みたいなものだ。まだ磨いてない、自然のままの石。私はそのままでもとても好きだがね。しかし、ヴァイオリンを作ったり、物語を書くと言うのは違うんだ。自分の中に原石を見つけて、時間をかけて磨くことなんだよ。手間のかかる仕事だ。その石の一番大きな原石があるでしょ。」 「はい。」 「実は、それは、磨くと、かえってつまらないものになってしまう石なんだ。もっと奥の小さいものの方が純度が高い。いや、外から見えないところに、もっといい原石があるかも知れない。いやあ、いかんいかん。歳をとると、説教くさくていかんなあ。」 「自分にこんなキレイな結晶があるのかどうか、とても恐くなっちゃった。でも、書きたいんです。書いたら、きっと、おじいさんに最初にお見せします。」 「ありがとう。楽しみに待ってますよ。」 { 小林桂樹の巧みな演技が光る。}
 帰り道。「原石。ラピスラズリの鉱脈。」 旅立ちの音楽。物語の中のバロンがあらわれた。「いざ、お供つかまつらん。ラピスラズリの鉱脈を探す旅に。」とバロン。ピンクのドレスに赤い髪の雫。「恐れることはない。新月の日は、空間が歪む。遠いものは大きく、近いものは小さく見えるだけのこと。飛ぼう。上昇気流をつかむんだ。急がねば。小惑星が集まってきた。」とバロン。飛び降りる二人。が、舞い上がる。「いいぞっ、気流に乗った。このまま、あの塔を一気に越そう。」 「あんなに高く?」 「なあに、近づけばそれほどのことはないさ。」 高く舞い上がって、飛び去る二人。{ おそらく周到に推敲されたバロンの台詞が魅力的だ。} カメラが下がるにつれ、幻想の景色は現実の街に変わる。{ リアリティを超え、ファンタジーな }階段を駆け下りる雫。「行こう。恐れずに。午後の気流が乱れる時、星にも手が届こう。」と雫。{ バロンの声と雫の声の対比が面白い。}
 図書館。仕事中のお父さん。物語以外の本を探す雫に、驚く。本を積み上げるが、なかなか書けない。ふと開いた本に、挿絵を見つける。「この人、牢屋でヴァイオリン作ってるんだ。」 ひとり、物語を書く雫。向かいの席に座っている聖司に気づく。「聖司くんっ!」 叫んでしまう雫。「もう、行っちゃったのかと思ってた。」 やさしい音楽が流れ始める。「おじいちゃんに聞いて、ここじゃないかと思ったんだ。会えて良かった。明日、行く。」 「明日。」 うなずく雫。「いいよ、雫が終るまで、ここで待ってる。」 { 問題の本を持ってる聖司。} 少し照れながら、嬉しさをかみしめる二人。時々、見つめ合う二人。{ わたにゃんだったら、残りわずかな時間を好きな相手と語り明かすのだが、この二人は、この時点では「観念」でひかれ合ってるのだ。つまり、「理屈」が勝っているのだ。年配の大人の恋愛みたいだ。} やがて、二人のいる空間が、光の輪となり、街灯の明かりに変わる。その下で、自転車の聖司を見送ろうとする雫。「送れなくて、ごめんな。」 「ううん。来てくれて、とても嬉しかった。見送りには行けないけど、帰りを待ってるね。」 { 見送りに行けばいいじゃん。秘密にしておきたいのかしら。} 「うん。たった2ヶ月さ。」 右手をさし出す聖司。左手を重ねる雫。「あたし、泣き言ばかり言って、ごめんね。あたしもがんばるね。」 { 雫が泣き言を言う場面が省略されてたのか? 恋愛映画なら、必要な場面ではないのか??? } うなずく聖司。車が通過して、二人のつないだ手を照らした。「じゃあ、行ってくる。」と、走り去る聖司。「行ってらっしゃ~い。」と、叫ぶ雫。遠ざかりながら、手を振る聖司。手を振る雫。{ ここは、しっとりとした名場面なのだが、「いってらっしゃい」では、あまりに陳腐だ。最後に凹んでしまった。文学少女らしく、即興で詩でも詠んで欲しかった。痛恨。} 電車の中で、夜景を見ている雫。
 再び、物語の中。バロンの独白が続く。「私といいなずけのルイーゼは、遠い異国の町に生まれた。その町には、まだ魔法が生きていて、魔法使いの血を引く職人たちが、工房を連ねていたのだった。」 異国の町。ゆっくりと歩く人びと。「私たちを作ったのは、見習いの、まずしい人形作りだった。しかし、ルイーゼと私は幸せだった。彼が人を愛する思いを込めてくれたから。」 揺れる灯りに照らされ、笑っているようなバロンとルイーゼ。何かが飛んでくる。「ところが…。」 昆虫型の飛行機に乗ったムーンのような猫人間。
 不意に、誰かが雫を呼ぶ声。夕子である。教室で原稿を書いていたが、先生に指名されていたのだ。{ 制服が冬服になっている。10月になったらしい。さりげなく、時間の経過を演出している。} 「分かりません。聞いてませんでした。」と雫。「大事な時だぞ。」と、叱る先生。{ 周囲のクラスメイトが石みたいに固まってて、シュール。少しでも、動きがあったら良かったのだが…。}
 外のベンチに座る雫と夕子。4時まで起きていたけど眠くないと言う雫。驚き、心配する夕子。「書きたいことがありすぎてまとまらないんだ。」と雫。が、食欲はない。{ 少しずつ、「疲れ」が表現される。}
 自分の部屋で、1994年の10月のカレンダーに×をつけている雫。18日を消す。行き詰まり、足をバタバタさせる雫。お母さんが帰って来て、小言を言い始めるが、戸を閉めて無視する雫。食事にも顔を出さず、カロリーメイトみたいなのを食べ、ひたすら執筆する。{ だんだんと雲行きが怪しくなる。巧みな表現。}
 飛行船が飛んで行く。学校に呼び出されたお母さん。進路指導室につれ込む担任。
 食卓で、ワープロを打っている お姉ちゃん。帰ってきたお母さん。お湯を沸かしながら、「私、家を出ようと思うんだ。」と お姉ちゃん。驚く お母さん。{ 男ができたことを直感したのだろう。} 「もう、部屋見つけてあるの。」 「でも、お金かかるんでしょ。」 「大丈夫。バイトで貯めたし。塾の先生の口、見つけたから、何とかやって行ける。」 「そっか。汐には手伝いばかりやらせっちゃったもんね。がんばりな。お父さんに話しとく。」 「本当? 嬉しい!」 { かなり寛大な親だ。その方が、子供は成長するのかも知れない。が、非行に走る可能性もある訳で、子育ては賭けのようなところがある。が、大学生ともなれば、束縛するのはおかしいかも。} 春になったら、働いて応援すると言う お母さん。今は、修士論文で大変らしい。{ 次女が高校受験の時、母も自分の勉強をしていると言う設定が面白い。} 「部屋が広くなって、雫も少しは勉強に集中できるよ。あの子、このごろヘンだもの。」と お姉ちゃん。雫の成績表を見せる お母さん。「信じらんない! 100番も落っことしてるじゃない。」 驚く お姉ちゃん。「あの子、机にかじりついて、何やってるのかしらね。」 { 調べないのが偉いというか、奇特。わたにゃんの親は、子供の日記を勝手に読んだりする、信用のおけない親であった。}
 帰ってきたお父さん。言い争っている お姉ちゃんと雫。「あんな成績で、いったいどんな高校に行くつもりなの?」 「いいわよ。高校なんか行かないから。」 「高校行かない? 世の中甘く見るんじゃないわよ。中学出ただけで、どうやって行く気?」 { 中卒の人には厳しい台詞だ。} 「自分の進路くらい、自分で決めるよ。」 「生意気言うんじゃないの! 雫のは、ただの現実逃避だよ。二学期で内申決まるの分かってるでしょ。」 「勉強するのが、そんなにえらい訳? お姉ちゃんだって、大学入ったら、バイトしかしてないじゃない。」 「あたしは、やるべきことはやってるわ。今やらなきゃいけないことから逃げてるのは、雫でしょ。それが分からない?」 着替えながら、聞いている お父さん。「逃げてなんかいない。もっと大事なことがあるんだから。」 「大事なことって何よ。ハッキリ言ってごらん。」 黙る雫。「汐、雫、もうよしなさい。」とお父さん。「二人ともこっちに来て訳を話してごらん。雫、ちゃんと服を着替えておいで。」と言って、去る お父さん。{ 厳しくはないのに、信頼(あるいは、尊敬)を得ているから、指導力もあるのだ。} 去る姉。脱ぎ始める雫。{ おっ (〃ノ∇ノ) } が、またぞろ、痛恨の画面転換 (ノд`)
 雫の中間テストの成績表。国語以外は、凄惨な点数。とくに理系科目がひどい。「なるほど。雫、汐の言った通りかい?」と お父さん。「テストがどうでもいいなんて思ってない!」と雫。「さっき、高校へ行かないって言ったじゃない。」と お姉ちゃん。「だって、お姉ちゃんがどこへも行けないって言った!」と、切れる雫。「汐、雫と二人で話をするから、席を外してくれないか。」と お父さん。去る お姉ちゃん。お母さんは、近所に出かけてるらしい。が、絶妙なタイミングで帰ってくる。「母さんもここへ来てくれないか。雫のこと、汐から聞いたところなんだ。」と お父さん。父母と向かい合う雫。{ 2対1と言うのは、卑怯な戦法。} 「さて、雫。今、雫がやってることは、勉強よりも大切なことなのか?」と お父さん。うなずく雫。「何をやってるのか話してくれないか?」 { 立花隆の滑舌の悪さに、妙なリアリティがある。} 「言える時が来たら言う。」 { 何故、隠す??? 聖司のことを知られたくないのか??? } 「雫、それって、今すぐやらなきゃいけないことなの?」と お母さん。「時間がないの。あと3週間のうちにやらないと。あたし、その間に、自分を試すって決めたんだから。やらなきゃ。」と雫。「試すって、何よ。何を試してるの?」と お母さん。黙する雫。「黙ってちゃ分からないでしょ。お父さんや お母さんには言えないことなの?」と お母さん。タバコに点火するが、お母さんに怒られ、一口吸って、消す お父さん。「雫が、図書館で、一生懸命、何かやってるのを見てるしな。感心してたんだよ。雫のしたいようにさせようか、母さん。」と お父さん。「一つしか生き方がない訳じゃないし。」と、折れるお父さん。驚く雫。「ふう。そりゃあたしにも身に覚えの一つや二つはあるけど。」と、折れるお母さん。「よし、雫。自分の信じる通りやってごらん。でもな、人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても、誰のせいにもできないからね。」と お父さん。{ この台詞は素晴らしい。挑戦を続ける宮崎駿の声として、中途半端な気持ちで夢を追う若者を戒める力がある。が、地味な場面であり、トラウマ的な不快を感じさせる場面でもあるため、あまり語られることが無いようである。} うなずく雫。「それから、ご飯の時はちゃんと顔を出しなさい。」と お母さん。「そうだ、家族なんだからね。」と お父さん。「はい。」と、静かに答える雫。「汐を呼んできて。」と お父さん。{ お姉ちゃんの存在を忘れない、最後まで丁寧な作り。}
 物語を書いてる雫。お姉ちゃんが話しかけてくる。{ やさしくなってる。お姉ちゃんの家を出る問題も解決したのだ。} 「お父さん、ああいってるけど、本当は、勉強してもらいたいと思ってるんだからね。」 「分かってる。背中に書いてあるもん。」 「あたし、今度の日曜日に引っ越すからね。部屋、一人で使えるよ。」 不意に、悲しげな音楽。「お姉ちゃん、家出るの?」 「そう。しっかりやんな。」 お姉ちゃんが明かりを消し、暗くなる部屋。
 音楽が盛り上がり、一気に緊迫する。「早く! 早く!」と、バロンの声が響く。制服姿で、枯れ木の森を走る雫。{ 『未来少年コナン』に、似たようなシーンがあった記憶が…。そのうち、調べておきます。} 「本物は一つだけだ。」とバロン。壁に無数の石をはめ込んだ不気味なトンネルに迷い込む雫。「どれ? どれが本物?」 「早く! 早く!」 光る石を取ろうとするが、光はすぐに消えてしまう。その時、強い光を放つ石を見つける。外して、手のひらに乗せると、その光は消え、小鳥のヒナの死骸に変わる。絶叫する雫。{ 引きつった手指がリアル。} 姉のいない広い部屋の机の上で目覚める雫。淡い光の中、畳に崩れ落ちる。本を開くと、前に見た、牢屋でヴァイオリンを作る青年の画。生気のない少年のような顔の雫。{ かなり疲れてるのだろう。} ヴァイオリンを作る聖司の姿を思い出す雫。そして、悔しそうに顔を伏せてしまう。{ 物語制作中には、ここ以外、聖司を思い出す場面がない。が、その表情から、ずっと聖司を思って、がんばってた「重み」を感じることも不可能ではない。しかし、かなり観念的で、つまり、理屈が勝ってて、まるで恋愛映画らしくない。}
 暖炉の火にあたりながら、眠っている おじいさん。目覚めると、ドアが開いて、光の中に外国人の若い女が立っている。ドワーフとエルフの時計の音楽が鳴る。「ルイーゼ、来てくれたのか。私はもう、すっかり歳をとってしまったよ。」 女は無表情で近づいてくる。手をつなぐ二人だが、暖炉の薪が折れ、{ 同時に音楽も黙り、「現実」の非情さを感じさせる。} その音で、本当に眼が覚める おじいさん。すると、ドアが開き、驚く おじいさんだが、それは、制服姿の雫であった。「すいません。あの、物語を書いたので、持ってきました。」 「ほう。それで、できたんですね。」 「約束です。最初の読者になってください。」 「これは大長編だ。」 タイトルは、『耳をすませば バロンのくれた物語』。「あの、今すぐ読んでいただけませんか? 何時間でも待ってますから。」 「しかし、せっかくの作品だから、時間をかけて読みたいがな。」 「つまらなかったら、すぐやめていいんです。いえ、ご迷惑でなかったら、あの、ドキドキして、とても…。」 「分かりました。すぐ読ませてもらいます。」 店を閉店するおじいさん。下の部屋で待つと言う雫。
 仕事机に聖司の面影を見る雫。外の通路から、夕暮れのせまった街を見下ろすが、その手は震えている。夜になる。灯がつく。ムーンとともに、外でうずくまっている雫。おじいさんが近づく。「こんなところで…。雫さん、読みましたよ。」 おじいさんを見上げる雫。「ありがとう。とても良かった。」 「うそ、うそ。本当のことを言ってください。書きたいことがまとまってません。後半なんか滅茶苦茶。自分で分かってるんです。」 笑うおじいさん。「そう。荒々しくて、率直で、未完成で、聖司のヴァイオリンのようだ。」 雫の表情が変わる。「雫さんの切り出したばかりの原石をしっかり見せてもらいました。よくがんばりましたね。あなたは素敵です。」 おじいさんを見つめ、眼がうるみ始める雫。「あわてることはない。時間をかけてしっかり磨いてください。」 唇をかんで涙こらえるが、たえきれず泣き出す雫。{ この辺りは、話し手のおじいさんの顔を出さず、聴いている雫の表情をつぶさに見せるところがユニーク。ここで、雫を演じているのは、約半分は、作画に関わった人であり、実写とアニメが異なる部分である。それが、よく分かった。} 何度もうなずくおじいさん。あくびをして、家の中に入って行くムーン。雫のカバンを拾って、「さあ、ここは寒い。中にお入り。」とおじいさん。「あたし、あたし、書いてみて分かったんです。書きたいだけじゃダメなんだってこと。もっと勉強しなきゃダメだって…。でも、聖司くんがどんどん先に行っちゃうから。無理にでも書こうって、あたし、恐くて、恐くて。」 「聖司を好いてくれてるんだね。」 うなずく雫。よろこぶおじいさん。{ わたにゃんは、この辺りが物語の頂点であり、本作は、雫と聖司の物語ではなく、雫とおじいさんの物語だと受け止めている。世評の高いラストシーンは、後述するが、かなり疑問を感じる。}
 エサを食べるムーン。おじいさんと鍋焼きうどんを食べる雫。後ろで、うらやましそうに見てるムーン。聖司の最初のヴァイオリンができた時は、ジャンボ大盛りのラーメンを食べたらしい。{ 食べ物を美味しそうに描く技術力に、いつも感心する。}
 昔話をするおじいさん。ドイツに留学中、町のカフェでバロンを見つけた。「メランコリックって言うのかな、この表情にひかれてね。店の人に、ぜひ譲ってほしいと申し出たんだ。でも、断られた。この猫の男爵には連れがいる。恋人同士を引き離すことはできないってね。ちょっとした修理に職人の元に戻してある貴婦人の猫の人形の帰りをバロンは待ってるって言うんだ。」 { 貴婦人の猫の顔が雫の物語と違うのが面白い。} 「それって、まるで私の作った物語と…。」 「そうなんだ。不思議な類似だね。帰国の日も迫っていたし、ぼくはあきらめようと思った。その時ね、一緒にいた女性が申し出てくれたんだ。」 回想シーン。{ 何故か、}止め画で、人物の肌が黒く塗られている。「恋人の人形が戻ってきたら、彼女が引き取って、二つの人形をきっと一緒にするからって。店の人もとうとう折れてね。」 電車の窓から、女性に別れを告げるおじいさん。また、止め画だが、機関車の蒸気だけが動いている。「ぼくは、バロンだけをつれてドイツを離れることになった。必ず迎えにくるから、それまで、恋人の人形を預かって欲しいと、その人に約束してね。」 光の中のバロンと猫の貴婦人。やがて、おじいさんと女性に変わる。「二つの人形が再会する時は、私たちが再会する時だと。」 眠るムーン。「それからすぐ戦争が始まってね。ぼくは約束を果たせなかった。」 パイプを手にした、厳しい表情のおじいさん。「ようやく、その町に行けるようになってから、ずいぶん探したんだ。」 話を聴いてるようなバロン。「しかし、その人の行方も、バロンの恋人も、とうとう分からなかった。」 涙を浮かべる雫。「その人、おじいさんの大切な人だったんですね。」 「追憶の中にしかいなかったバロンを、雫さんは、希望の物語に蘇らせてくれたんだ。そうだ、あれを。」 { つぎの台詞に移るタイミングが、また、妙に速い。} 何かを取りに行くおじいさん。涙をぬぐう雫。「さあ、手を出して。」 「あの…。」 この前の石。「その石は、あなたにふさわしい。さし上げます。しっかり、自分の物語を書きあげてください。」 「はい。」 涙をぬぐう雫。{ おじいさんの物語を詳細に語るべきだったのかは、判断しかねるが、聴いている雫の表情が素晴らしい。最後の涙も良い。}
 おじいさんの車で送ってもらった雫。嬉しそうに、もらった石を見て、走り出す雫。台所で勉強してるお母さん。お父さんは お風呂に入ってる。「あなた、今、何時だと思ってるの?」と お母さん。「ご心配おかけしました。今日から、取りあえず受験生に戻ります。ご安心ください。」と、頭を下げる雫。「あら、じゃ、試しとやらが終ったのね。」 「取りあえずね。」 去る雫。「取りあえずか…。」と お母さん。
 雫の部屋に お父さんが来る。ベッドで寝てる雫。「戦士の休息だな。」と、布団をかけ、明かりを消して去る お父さん。{ お父さんとお母さんのバランスを取ってるのが巧みだ。}
 朝が来た。目覚める雫。部屋が散らかっている。窓を開けると寒く、息が白くなる。下の道路で、自転車に乗った聖司が手を振る。湧き上がる音楽。「うそっ!」と、驚く雫。自転車の後ろの荷台を指さす聖司。「待ってて!」と、小さな声で叫ぶ雫。玄関を飛び出す。「奇蹟だ、本当に会えた。」 「夢じゃないよね。」 「飛行機を1日早くしたんだ。乗れよ。」と、荷台を指さす。{ これを奇蹟と言うのは抵抗を感じる。聖司が何時から待ってたのか分からないが、決してあり得ない偶然ではない。} 「あ、ちょい待ち。それじゃあ寒いぞ。」と、上着を脱いで、雫に着せる聖司。「さあ、乗った。」 「あたし、コート、取ってくる。」 「時間がないんだ。さあ、乗って。しっかりつかまってろ。」 走り出す自転車。「雫に早く会いたくてさ、何度も心の中で呼んだんだ、しずくぅって。そしたらさ、本当に雫が顔出すんだもん。すごいよ、おれたち。」 聖司の背中に額をつける雫。「あたしも会いたかった。まだ、夢みたい。」 { 物語を書きあげたことで、あるいは、おじいさんの話を聞いたことで、変わったのかもしれないが、大胆と言うか、やや唐突な感じがする。物語制作中には、聖司の影が隠されていたからだ。物語制作中に、心に渦巻く、燃えるような想いの独白があれば違ったのだが。} 大きな道路を走って行く。「クレモーナはどうだった?」 「見ると聞くとは大違いさ。でも、おれはやるよ。明るくなってきたな。」 大型のトラックとスレ違う。{ 危なっかしい。が、ここでは、その無謀さが良い。} 坂道。「降りようか?」と雫。「大丈夫だ。お前を乗せて、坂道上るって決めたんだ。」 { この台詞は人気があり、一人歩きしていて、「mixi」では、この台詞の巨大なコミュもあるが、直後に、聖司自身によって「否定」されてることが見落とされてるのが不思議だ。} 「そんなのずるい!」 { 何故、「ずるい」なのか??? わたにゃん的には「そんなのひどい!」の方がしっくりくる。また、「ずるい」と言われたら、恋愛は終わりだと言う感覚もある。} 自転車を降りて、後押しする雫。「お荷物だけなんてヤダ。」 { 雫は、結婚して主婦になりたいと思う女ではないようだ。この台詞を考えても、「ずるい」には違和感がある。が、宮崎駿の少しズレた台詞が、ファンにはたまらないようだ。よく分からないのだが…。} 聖司の上着を落とし、拾って、また後押し。「私だって、役に立ちたいんだから。」 「分かった。頼む。もう少しだ。」 { 聖司の「頼む」が、この坂道を自転車で上ることではなく、もっと大きな意味だとしたら、「お前を乗せて、坂道上るって決めたんだ。」は、あっさり否定されてる。} 汗だくになって、坂を上りきった二人。「雫、早く乗れ。」と聖司。目的地に着き、自転車を降りて走る、聖司と雫。「間に合った。」と聖司。街を見下ろす高台の上。「すご~い。朝もやで、まるで海みたい。」と雫。「ここ、おれの秘密の場所なんだ。もうじきだぞ。」と聖司。遠い雲を超えて、太陽が出る。日の出を見る二人。照らされる朝もやの街。「これを雫に見せたかったんだ。」 聞き流すように、景色を見ている雫。「おじいちゃんから雫のこと聞いてさ、おれ、何も応援しなかったから、自分のことばっかり考えてて…。」 「ううん。聖司がいたから、がんばれたの。あたし、背伸びして良かった。自分のこと、前より少し分かったから。あたし、もっと勉強する。だから、高校へも行こうって決めたの。」 「雫。あのさ、」 『カントリー・ロード』の冒頭のアカペラ部分(本名陽子による)が流れる。「おれ、今すぐって訳には行かないけど、おれと結婚してくれないか!」 「えっ。」 { 本作の最大の問題点。本作において、初めて「結婚」と言う言葉が出て来るので、観る人は「通念」で解釈せざるを得ない。本作は「結婚」について、何も説明していないのだ。だから、結婚に疑問を持ってる人は、白けてしまう。だが、問題はそれだけではなく、聖司は分かって言ってるのだろうか???と言う疑問もわく。「見ててくれ。」とか「待っててくれ。」なら分かるのだが、「結婚」と言う言葉は特別なのだ。中学生の剣道の試合に、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)とか伝説の宝剣を持ち出した感じ。だから、恋愛映画としては、失敗している。もしかすると、意図的に失敗しているのかも。子供らしいなと感じる人もいるだろう。その方が、大人としての正しい解釈だと思う。ただ、「今すぐって訳には行かないけど」と言ってるので、多少、救いがある。} 「おれ、きっと一人前のヴァイオリン作りになるから、そしたら…。」 赤面し、「うん。」と、うなずく雫。{ 本名陽子の歌がうるさい。} 「ホントか?」 「嬉しい。そうなれたらいいなって、思ってた。」 { 雫も「結婚」を理解してるか怪しいが、聖司と同じな感覚を持ってることは、悪くないのかも。} 「そうか、やった。」 { この台詞、あまり嬉しそうではない。演出意図があったのかも知れないが、何故、ダメ出ししなかったのか??? } 「待って、風冷たい。」と、上着に聖司も入れようとする雫だが、「雫、大好きだ!」と、上着の上から強引に抱く聖司。{ よくある Jポップみたいだ。もっと、詩的なことを言ってほしかった気もする。視覚的には、むしろ、ぎこちないキスの方が良かった。}
 大音量で『カントリー・ロード』の本編に突入。エンドテロップ。画面の上1/3の道路を人や車が通過する。自転車で帰る雫と聖司。通学する生徒たち。ムーンも通過する。夕方になる。友だちと別れ、誰かを待つ夕子。杉村が走ってきた。何か話し合い、一緒に歩き始める二人。{ 夕子と杉村の行方は、観る人の想像に任せるべきだったと思う。『未来少年コナン』でも同じことを感じたが、宮崎駿はサーヴィス精神過剰だと思う。} 「監督 近藤喜文」で、暗転。


ツッコミどころ

  • 映画のキャッチコピー、「好きなひとが、できました」ってのは、プロの仕事ではナい (つд⊂) 考えたヤツも、ダメ出ししナかったヤツも ( ゚∀。) これのおかげで、劇場公開時には観る気になれず、後で、VHSのソフトを買った。
  • 「地球屋」と雫の家の位置関係が分からない ( ゚∀。) 電車で一駅なのかも (・∀・)
  • サイド・ストーリーが多すぎる ( ゚∀。)
     『おじいさんの青春物語 ドイツ留学編』 (ノд`)
     『汐お姉ちゃんの同棲大作戦』 (〃ノ∇ノ)
     『原田夕子と杉村(名は不明)、両思いへの道』 (≧∇≦)
     『お母さんの修士論文の戦い』 ( ̄□ ̄;)

わたにゃんが感情移入した人物

 月島雫。女子に感情移入するのは珍しいが、すんなりデキた (〃∇〃) 雫は、かなり中性的だからかも (〃∇〃)


ふと思ったこと (*´∀`)

 本作は、雫とおじいさんが主役であり、聖司は道化として味をつけてるように見える。雫と聖司のラストシーンは、コンサートのアンコールみたいだ。
 雫の父の英断や修士論文に打ち込む母の姿から、宮崎駿(もしくは、近藤喜文)は、「大人の役割は、子供の夢を見守り、時に助けることであり、自分の夢を託すことではない。そのような夢があるなら、自ら、努力して実現せよ。」と言ってるように感じる。この映画をある程度の歳の大人が観るとき、余計なお世話だが、聖司の台詞にトキめいてる場合ではないのだ。
 夢を追ってる人間が結婚もしようと思うのは、ゼイタクと言うか、二足のワラジのような気がする。結婚と言った時点で、やはり、道化なのだ (ノд`) もっと言えば、ストイックではないのだ (ノд`) とは言え、夢に追いついた時、結婚したければ、それも良いと思うけど (*´∀`)
 主人公が小説家を目指してると言う設定を隠し、後半、ただ、結婚だけに向かった『忍ぶ川』は紛れもなく恋愛映画であるが、『耳をすませば』恋愛部分の焦点が甘いので、青春映画とでも言いたくなる♪ それでいいじゃないか O(≧∇≦)O


  Ver. 0.10 2011年08月08日30時56分頃、完了。


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