恐怖劇場アンバランス
第5話
死骸(しかばね)を呼ぶ女 (核心)


1973年2月5日放送 円谷プロダクション、フジテレビ制作
監督:神代辰巳 脚本:山崎忠昭
出演:和田浩治、珠めぐみ、六本木誠人、穂積隆信、新井茂子、小林昭二、ほか

あるかも知れない。


同じ十字架を背負ったもの同志として
(まじめにレヴュー:{}内は、わたにゃんの解釈)

 頭蓋骨を手に座る青島幸男。手前に、白煙を吐く青いグラスが大きく写っている。「まあ、世に言う三角関係。いろいろありますわね。男と女、女と男。ま、フラれたっていいじゃないの、幸せならばって、歌の文句じゃないんですけどね。まあ、ほれて、ほれられて、婚約をして、結婚してって、まあ、世間によくあるケースですけれども、今日のお話はちょっと違うんです。幽体ってのをお信じになりますかな。つまりこの、肉体から、魂が離れて別個に存在をする。で、今日の話は、幽体同士の恋とでも言いますか…。」 青島幸男のトークは、プロデューサーの熊谷健の台本による。意図的なのかも知れないが、的外れなことが多く、本作も核心からブレている。 } 暗転。
 病室のベッドの上で、あえぐ若い女。「恵子さん、恵子さん。」と、呼びかけるスーツの男。男が外へ飛び出すと、動かなくなる女。女の体から、等身大の青い影が遊離し起き上がる。不気味な音楽。影は、女の分身となって、ゆっくりと病室を出て行く。「心臓の弱い方、おひとりでご覧になる方は、この恐怖劇場アンバランスはご遠慮ください。」と、お決まりのナレーション。医者、看護婦、さっきの男が病室に駆け込んで来るところで、黒猫と炎のオープニング映像。{ 予告編としては、妥当な場面だ。 }
 絶叫のような気持ち悪い音楽が鳴って、タイトル『死骸(しかばね)を呼ぶ女』。背景は、秋に見かける二匹つながった赤とんぼである。{ これは男と女の物語と言ってるのかも。 }
 テーブルの座る女の手を写すカメラ。「恵子さん。何故だ?」と男の声。指先が、白いテーブル・クロスを「ぎゅうっ」とひっかく。「お願い。この間の約束は忘れてください。」と恵子(珠めぐみ)。しきりにテーブル・クロスを「ぎゅうっ」とひっかく指先。{ 喪服のような }黒い服の恵子。起き上がるカメラが恵子の顔を写すと同時に、「何故、急に。」と男の声。「聞かないで!」と女。男(六本木誠人)のアップ。「どう言う気なんだ。君はぼくをからかったのか?」と、怒る男。離れて、ふたりを写すカメラ。「違います。あの時は、ホントに心の底からそう思って…。でも…。」と、次第に視線を落とす恵子。坂井の横顔のアップ。「たった3日で変わってしまった。どうしてなんだ?」と男。「今は言えません。」と恵子の声。恵子の横顔を写すカメラ。「分かったよ。松岡だな?」と男の声。気まずそうに男を見る恵子。「やっぱりそうか。君たちが前から引かれてたことは、知ってたよ。」と男の声。下を向く女。カメラが移動し、煙を吐く煙突が写る。{ 空を汚す煙。心の平静が失われてゆくことの暗示だろうか。 } 暗い音楽が流れ始める。「ぼくへの遠慮から、松岡は、君に対して、もう一つ積極的に出られなかった。しかし、すべて承知で、ぼくは結婚を申し込んだんだ。それを土壇場になって割り込むなんて。」と、続ける男。再び、男の横顔。「ヤツは男のクズだ!」と男。ハッとする恵子。「違います、あの人は。事情は何にも知らないんです。」と恵子。「僕たちは婚約したんだ。」と男。下を向く恵子。「ま、いいさ。ぼくにとっちゃ、事情はちっとも変わっちゃいない。君を愛してるんだ。絶対に婚約は解消しない!」と男。爪で、テーブルクロスを引っかいた恵子の指先のアップ。「ぎゅうううっ」と言う{ 何かを締めつけるような }不気味な音。「絶対に!」と男。テーブルクロスをひっかく指と「ぎゅうううっ」音。「あいつを殺してでも。」と男のアップ。{ 男は、坂井と言うのだが、何故か、次のシーンまで、名前が出てこない。 } 「ぎゅうううっ」音と、応える指先。「もしそんなことになったら、あいつを殺す!」と、眼に炎を浮かべるような男のアップ。テーブルクロスに無数につけられた爪の痕のアップ。{ 雪原のように見える。 } 電車の通過する音響が重なる。{ 本作では、音楽や音響が次の場面への導入となる手法が多用される。 }
 通過する黄色い電車を見下ろすカメラ。「松岡さん…。」と恵子の声。煙を吐く煙突。{ レストランから見える煙突を想起したのだろうか。 } 「私をあのレストランに誘ってくれた。あのレストランへ行きたくない。」と、独白する恵子。レストランで、別の男(和田浩治)と食事する赤い服の恵子。遠くに、煙を吐く煙突。やはり、男が左側。「どうしたの? 気分でも悪いの?」と男(以下、松岡)。首を横に振る恵子。笑う松岡。松岡のアップ。「坂井のことだね。心配することはないさ。あいつは人を殺せるようなヤツじゃない。」と松岡。緊張した表情の恵子のアップ。再び、松岡のアップ。「いいヤツだけど、気の弱い男なんだ。他人(ひと)を殺す前に、自分で自殺をする男だよ。」と、笑う松岡。楽しそうに笑い、パンを食べまくる松岡。楽しい音楽が流れ始める。恵子のアップ。笑う松岡を見て、少しずつ表情が明るくなり、笑い始める。和んだ雰囲気で、笑いながら外を歩く、松岡と恵子。通行人は傘をさしている。二人は傘を持ってない。ハンカチを出して、恵子の肩や自慢のデコを拭き拭きして笑いを取る松岡。珠めぐみのデコが比類ない。この楽しいシーンを観ると、スタッフもデコのことを意識していたのは明らか。 } 恵子は松岡を選んだのだ。走り去る二人の後ろ姿。
 また、赤とんぼが写る。無音。突如、爆音とともに、激しく崩れる崖。逃げる工夫たち。「前日の(←聞き取り困難)爆破作業がもとで、岩盤に割れ目を生じ、それが次第に拡がって、地滑りが引き起こされたものと思われます。」とラジオのアナウンサーの声。車が走っている。「極東建設本社から派遣された救助隊と地元警察が協力して、遭難者の救出にあたっていますが、現在までのところ、死者5名、重軽傷者あわせて11名、行方不明の者3名。なお…。」 婚約指輪をはめた女の手がラジオを切る。恵子の横顔のアップ。「坂井さんが死んでいたら、あたしのせいだわ!」と恵子。暗い音楽が静かに流れ始める。運転する松岡を見上げるカメラ。「事故と言うより、地滑りは天災だよ。坂井は、運が悪かっただけなんだ。」と松岡。恵子を見上げるカメラ。「いいえ、あそこへ坂井さんを追いやったのも、そして、今度の恐ろしい事故に遇わせたのも、みんなあたしよ。あたし、お断りした方が良いと思うの。」と恵子。「何を?」と松岡の声。ルームミラーに写る恵子。「私達の結婚のこと。」と恵子。ルームミラーに写る松岡。「よせよ。考えすぎだよ。あいつは事故にあったんだ。ぼくたちが愛し合ってることとは関係ないさ。」と松岡。実相寺昭雄ほど奇抜ではないが、単調になりかねない密室での会話にインパクトを与える工夫が素晴らしい。 } 松岡と恵子の乗る車を正面から写すカメラ。「ごめんなさい。あたし、そういう風に考えられないの。」と恵子の声。「事実なんだよ、それが。」と松岡の声。「坂井さん、自分から工事現場監督を買って出たんです。そんな風に考えるなんて、自分勝手で恐ろしいの。自分たちさえ良ければいいって言う…。」と恵子。車の正面から写し続けるカメラ。「もし、坂井さんが生きていたら、あたしと結婚してください。でも、そうでなかったら、あたしたち結婚できない。」と恵子。「バカなこと言うんじゃないよ。君は、ぼくと坂井とどっちを愛してるんだ。」と松岡。再び、車内。恵子のアップ。何か言おうとするが言えず、外を見る恵子。{ そもそも恵子には、二者択一の力が無いようだ。 }
 岩山、風の音。裸木にとまって、鳴くカラス。秋のようだ。{ ロケ地の荒涼とした雰囲気が比類ない。後で、「鋸南病院」と書かれた病院車が出てくる。千葉県の鋸南町(きょなんまち)付近でロケをしたようだ。 } 遠くの海を写した後、松岡の車をとらえるカメラ。車が止まるなり、走り出す恵子。「恵子さん!」と、驚く松岡。病院車が来ている。取り乱しながら、担架で運ばれて行く人々を確認する恵子。「恵子さん! 待ちたまえ。恵子さん、落ち着くんだ!」と、後を追う松岡。「おい、松岡くんじゃないか。」と西口(小林昭二)。「ああ、西口さん。ご苦労さんです。坂井、見つかりましたか?」と松岡。「いやあ、未発見の遺体はあと3人だけなんだが…。」と西口。恵子のアップ。ぼんやり聞いてたが、ハッとして、「遺体ですって? まだ生きてるかも知れないのに!」と、絶叫する恵子。厳しい表情の西口。その横にいた駐在さん(瀬良明)が、「じゃ、後はよろしく。」と言って、去る。「あっ。」と、頭を下げる西口。病院車が走り去る。テントの下で、看護婦たちが治療にあたっている。その近くに立つ、松岡、恵子、西口。「診療所に軽傷者たちが収容されてる。坂井くんのことについて、何か聞きだせるかもしれん。」と西口。「はっ。行こう。」と、恵子を連れて行く松岡。
 診療所の中。怪我人のうめき声。「オレよ、前の晩、飲みすぎて、あん時、トラックの荷台で昼寝してたんだ。」とヒゲの作業員、安(やす)(鮎川浩)。そのベッドの横に立つ、松岡と恵子。「そしたら、突然、坂井さんに叩き起こされ、道へおっぽりだされ、ビックリして見ると、あの地滑りだ。泡食ってオレは逃げたが、命の恩人の坂井さんは、トラックもろとも、死んじまった!」と安。赤いカゴの中でトイルを回すネズミ。ホイルの音。恵子と松岡のアップ。驚く、恵子と松岡。「死んじまったよ!」と、泣く安。ホイルを回すネズミのアップ。ホイルの音。「あんなにかわいがってたチュー公を置いてきぼりにしてぇ。」と、泣く安の声。言葉のない、恵子と松岡のアップ。「坂井さんは死んじまった。死んじまったんだ!」と、号泣する安の声。気を失う恵子。エレクトーン(?)の不思議な音楽。
 継続する音楽。「死んじゃダメ。死なないで、坂井さん。」と、病室のベッドの上でうわ言を言う恵子。恵子の肩を押さえる看護婦の手。「生きて、生きてて!」と恵子。恵子の右手に注射をする医者の手。「死なないで!」と恵子。「こんな患者はめずらしいや。異常に高ぶった神経が、鎮静剤に逆らってるみたいだ。」と医師(穂積隆信)のアップ。「かわいそうに。よっぽど坂井さんを愛していたのね。」と看護婦(新井茂子)。ハッとする松岡のアップ。「坂井さん!」と、叫ぶ恵子の声。「死なないで、坂井さん。」と、ベッドの上で、悶える恵子。医師のアップ。「この人と坂井くんの間にどんな事情があるか知らんが、これほど鎮静剤をうっても効果がないと言うのは不思議だよ。」と、松岡に話す医師。割りきれない表情をしつつ、無言の松岡のアップ。「考えられん。」と医師。「坂井さん、死なないで!」と、叫び続ける恵子の声。後ろを向く松岡。{ 恵子は坂井のことも、これほどに愛している。異様な現実に眼を背けているかのようだ。 } ふり返る松岡。窓のブラインドを写すカメラ。
 崩れた岩山の斜面。風の音。カラスの鳴き声。岩山を写して行くカメラ。「高校から大学。極東建設に入社するのも一緒。無二の親友の坂井と私は、皮肉にも、小山恵子への愛まで一緒だった。」と松岡の独白。裸木にとまり、鳴くカラス。「そのために断たれた友情の絆を、今一度、何としてでも、元通りにつなぎ合わせたかった。本当に坂井は死んだのだろうか?」 岩の下に埋まっている2人の遺体。岩をどける救助隊員。「後は、坂井くんだけだ。」と西口のアップ。「トラックごと土砂にまき込まれたらしいですからね。」と救助隊員。「うん、崖下へ押し流されたかも知れん。手分けして探そう。」と西口。茫然と立ち会っている松岡。{ 何故か、ヘルメットを着用していない。 } 遺体を担架で運んで行く救助隊員たち。しきりに鳴くカラス。風の音。松岡をクローズアップするカメラ。「坂井の死は間違いない。とすると、ホントに恵子は、私から去って行くのか?」と松岡の独白。青空を飛ぶトンビ(?)。風の音。
 すすり泣くような異常な音楽が流れ、さまよう女。「お~い、そっち行っちゃいかん。戻って来い!」と救助隊員の一人、相沢(二瓶鮫一)。「落石にでもやられたら、どうする気だい。」と相沢。「連れ戻して来るから、ちょっと待っててくれ。」と、もう一人を残し、女を追う相沢。「お~い、待て待て待て!」と相沢。「あれ?」と、女を見失う相沢。周囲を見回す相沢。裸木のカラス。岩に埋まった遺体を見つける相沢。青空を舞うカラスの群れ。無線を受ける西口。「こちら相沢、聞こえますか隊長。どうぞ。」と相沢の声。「こちら西口。どうぞ。」と西口。「坂井さんの遺体を発見しました。」と相沢。「こちら西口、どうぞ。」と西口。隣りで、空を見上げている松岡。裸木のカラス。鳴き声。通信している相沢。「場所は、西側登山口の北方、約200mのガレ場。」と相沢。不気味な音楽とともに起き上がる、血まみれの坂井。「繰り返します。場所は、西側登山口の北方、約200mのガレ場。」と、言って、起き上がった坂井に気づき、絶叫する相沢。相沢の絶叫を聞く、西口、松岡たち。「相沢、どうした!」と西口。雑音が入る無線機。「おい、応答せよ、応答せよ!」と西口。走り出す、西口、松岡たち。裸木のカラス。頭を割られた相沢の遺体。「かわいそうに、相沢のヤツ。女を連れ戻しに行って、自分が落石にやられちまいやがった。」と、待機してた隊員。{ 何故か、台詞棒読み。 } 「女?」と西口。青空を飛ぶ無数のカラスの群れ。「ええ。さっき、見慣れない女が、フラフラっとこっちへ。あの女、どこ行ったんだろ。」と隊員の声。西口と松岡を写すカメラ。「変だといえば、坂井の遺体が見あたりませんね。」と、渋い顔の松岡。「ううん。相沢も徹夜の疲れで神経が尖ってたからな。多分、眼の錯覚だろう。」と西口。ふと、ライターを拾う松岡。「ノボル・サカイ。西口さん、これは。」と、ライターを西口に渡す松岡。「私の聞き違いだ。相沢は、あの時、「遺体」ではなく、坂井くんの「遺品」を発見したと言ったんだ。」と西口。小林昭二のやや気張った台詞に、かすかに陽気なギャグの香りが…。 } 「いや、相沢は確かに「遺体」と。でも…。」と、訳が分からない松岡。夕暮れの迫った崖の上を、相沢の遺体を担架で運んで行く隊員たち。ティンパニが静かに鳴らされる不思議な音楽。カラスの声。「あの女、確かどっかで…。そうだ、松岡さんの連れの人だ。」と隊員の声。{ 棒読み。で、訛ってるし。 } 「それこそ、君の眼の錯覚だよ。」と松岡の声。「いや、しかし、服装も背格好もあの人にそっくりでしたよ。」と隊員。「いいかげんにしろよ。診療所で鎮静剤をうって寝ている彼女が、どうしてあんなところを歩き回るんだ。」と松岡。
 継続する音楽。日没で、赤く染まった乱れ雲。「松岡さ~ん、松岡さ~ん。」と、日没の空を背に駆けてくる看護婦。「松岡さん。恵子さんの容体が…。」と看護婦。「何?」と松岡。「一緒に来てください、早く!」と看護婦。「よし!」と松岡。走り去る二人。
 赤い光を浴びる、ベッドの上の恵子。呼吸の音。赤い光の差し込む室内。{ 実に、異様な雰囲気だ。 } 様子を見ている、厳しい表情の医師。松岡と看護婦が病室に入ってくる。「先生、恵子さんは?」と松岡。無言で、「見ろ」とばかりに、顎で合図する医師。呼吸音。「どうしたんですか?」と、事情が分からない松岡。看護婦のアップ。「生き返ったんだわ。」と看護婦。松岡のアップ。「生き返った? どう言うことなんです?」と松岡。「さっきはね、心臓も止まった。呼吸も絶えた。彼女は確かに死んでたんだよ。」と、声をひそめて話す医師。「そんなバカな。誤診じゃないんですか?」と、納得できない松岡。「失礼よ、松岡さん。」と看護婦。「しかし…。」と松岡。「無理もないよ。医者の私でさえ、まだよく信じられないくらいなんだから。医学の常識を超えたことだから。」と、静かに話す医師。「彼女は確かに生き返ったんだ!」と、急に声を荒げる医師。「さっきは見間違え、それから聞き違い、そして今度は見立て違いですか。」と、納得できない松岡。「よしたまえ、私は事実を言ってるだけだ。」と医師。「それをぼくに信じろと言うんですか! この町には、幽霊でもいるんですか! 狂ってますよ。」と松岡。「私は、いい加減なことを言ってるんじゃない!」と、逆切れて立ち去る医師。看護婦も去る。入れ代わりに、駐在が入ってくる。「坂井昇さんのお友達の方ですか。」と駐在。「はあ。」と松岡。「保管しておいた遺品をお渡ししますから。じゃあ。」と、数冊のノートを手渡す駐在。「はあ。」と、受け取る松岡。恵子を見ている松岡。CM。
 テーブルにタバコを数本投げつける松岡。鼓とクラリネットの不思議な音楽。タバコの箱を破りながら、「何かが狂っている。この小さな町に何か、異様なことが起こりつつあることは間違いない。」と、戦慄する松岡。恵子の様子を気にしながら、タバコの箱で家を作り、それに火をつける松岡。燃えてゆく紙の家。それを見つめる松岡。{ もはや、松岡も結婚への明るい希望は捨てざるを得なかったのだ。こういう暗示的な表現は、作品を幻想的に彩る。 } 駐在から預けられた坂井の日記帳を手に取る松岡。「読んだが最後、あたしと恵子の間を無残に打ち砕いてしまうかも知れない坂井の日記帳。だが、この危険な誘惑に、あたしは打ち勝つことができなかった。」と、独白しつつ読む松岡。{ 松岡の一人称が、突然、「あたし」になる。その理由は不明。 } ペットだったハツカネズミについての記述。「動物嫌いのおれが、何故、ハツカネズミを飼う気になったのだろう。カゴの中に閉じ込められ、単調に、際限もなくホイルをブン回すチュー公。夢も望みも行き場もないのに……。今のオレにそっくりだ、いや、オレの姿そのものだ。」と坂井の独白。{ 婚約を反故にされてから、事故が起こるまで、少し時間が経っていたようである。 } ホイルを回す音が重なり、赤いかごの中のチュー公が写る。「恵子、君は何故? 恵子はおれたち二人を天びんにかけた。そして選んだ、松岡を。専務の甥で、出世コースもひらけた、かってのおれの親友を。おれは結局、女と言う虚栄の化け物がねらった獲物を釣りあげるためのダシに使われたに過ぎなかったのだ。」と坂井の独白。燃え尽きた紙の家。「恵子。おれを裏切った憎い女。殺しても飽き足らない。だが、思い切れない。」と坂井の独白。{ 自嘲しつつも、恵子を忘れられなかった坂井。激しい憎しみを抱きながら、恵子や松岡を殺すこともできず、自殺するように危険な仕事に志願した坂井。悲しいかな、冒頭の松岡の台詞の通りである。 } 日記帳を閉じる松岡。「どうしても忘れることができない。愛している。おれは愛している。気も狂わんばかりだ。」と坂井の独白。{ すでに日記帳を閉じた松岡の心中に響き渡っているようで、言い知れぬ迫力がある。見事な演出。 } すると、{ その独白に応えるように }恵子が苦しみ始める。あえぐ恵子。「恵子さん、恵子さん。」と、呼びかける松岡。松岡が外へ飛び出すと、動かなくなる恵子。女の体から、等身大の青い影が遊離し起き上がる。不気味な音楽。影は、恵子の分身となって、ゆっくりと病室を出て行く。戸を叩く音。「先生、恵子さんが…。早く、先生!」と松岡の声。恵子の分身と入れ代わりに、医師と看護婦と松岡が入ってくる。脈を取る医師。静かになった恵子のアップ。「死んでる。さっきと同じだ。」と医師。3人を写すカメラのピントがぼやけてゆく。「いったいこれは?」と看護婦の声。
 継続する音楽。暗闇で手招きする恵子の分身。不気味な音楽。歩いてくる誰かの影。頭から血を流してる坂井である。一緒に、松林を歩いて行くふたり。病室。赤いカゴの中で、ホイルを回すチュー公。カーテンに写った人影が、窓を開ける。風が吹き込んで眼が覚めるヒゲの作業員、安。手が伸びて、カゴを奪ったので、あわてて窓から顔を出すが、強く戸を閉められ、首を挟まれる。地面に置かれたカゴの中で、ホイルを回すチュー公。血を吐いて、絶命している安。ふとカーテンを開けた松岡は、外に、坂井の後ろ姿を見る。カーテンを閉め、急いで追う松岡。岩の上で、向かい合う恵子の分身と坂井。坂井は、どこかへ歩き去る。恵子の分身は別の方向に歩き始める。隠れて見ている松岡。訳が分からないようだ。階段を上ってゆく恵子の分身。{ 見えそうで見えないぱんちゅ。 } 病室のベッドの上の恵子に重なる、青い影と化した恵子の分身。影と一体になると、呼吸を始める恵子。松岡が入って来る。松岡がベッドの横に座ると、看護婦が入ってくる。「あの事故があってから、やなことばっかり起こるわね。」と看護婦。青いビニールのスリッパを履いた右足をパタパタと動かす松岡。「この患者さんだって、何だか気味が悪いでしょ。世の中がおかしくなったみたい。」と、何か書きながら、話す看護婦。ムスッとして、シカトしてる松岡。「今、警察が来てんのよ。どうなるって言うの。」と看護婦。スリッパの中で足指が動き、グリグリっと音をたてて、歪むスリッパ。「本当に、町に幽霊でも住みついたみたい。でも、坂井さんって、考えようによっては幸せな人ですよね。死んでもこんなに想われてるんですもの。」と看護婦。キレそうな松岡。パタパタを止め、両手を重ねたりする。無言で去る看護婦。{ 太宰治の言葉を借りれば、「リアリスト」と言うのか、ひどく無神経な看護婦が、恋に生きてる恵子とは対照的だ。これが、看護婦(死語)と言うものかっ ( ̄□ ̄;) } あきらめたような表情の松岡だったが、何かを決意し、病室を飛び出す。
 夜の岩場を歩く松岡。「いったい何が起こってるんだ。あたしはいったい何をしようとしてるのか。あたし自身、気がおかしくなったのか。」と松岡の独白。坂井の遺体を見つけ出し、それを担いで、浜辺を歩く松岡。クラリネットの不気味な音楽と波の音。頭から血を流してる坂井のアップ。もう動かない。松岡のアップ。「恵子がやったのではない。だが、少なくとも、恵子は坂井に力を貸した。それ以上に、坂井に殺人を犯させたのは、恵子ではなかろうか。」と松岡の独白。小舟を漕いで、夜の海にのり出す松岡。{ 次第に小さくなる手漕ぎの小舟が、やる瀬なさを呼ぶ。 } 坂井の遺体を海の沖合いに棄てる松岡。重りが胴にしばってあるようだ。海中に消える坂井の遺体。暗く輝く海面。衝撃的な音楽。
 継続する音楽。昼の海が写される。カメラが回転し、海辺の道路を走る車が写される。運転席の松岡のアップ。「あたし自身、気が狂わないのは不思議だった。」と松岡の独白。図書館。鼓とクラリネットの不思議な音楽。調べ物をする松岡。一瞬、挿入される裸木のカラス。『人体の霊的構成』、『心霊科学概論』、『念の化生』と言う本が写される。{ 実在する本だろうか??? } 松岡のどアップ。「今、あたしが感じている、この不思議なイラ立ちは何だろうか? 恵子と同じように、あたしの体から、何かがしきりに抜け出そうとしている。」と松岡の独白。{ 終盤への伏線であるが、ちょっと理解しがたい感覚のため、違和感がある。 } 松岡のどアップに、赤いかごの中でホイルを回すチュー公、文献中の頭部のレントゲン像、、赤い光の中で眠る恵子が、一瞬ずつ、挿入される。電話をかける松岡。病院で電話が鳴る。医師が出る。「あ、もしもし、もしもし。あ、松岡くんかね。いったいどこ行ってるんだべ。」と医師。和田浩治穂積隆信も活舌は良くない。 } 「今、町の図書館です。その後の彼女の容体は?」と松岡の声。「いやぁ、それがね。どうしても昏睡から覚めんのだよ。」と医師。カラスの鳴き声。「いやいや、鎮静剤の作用は、とっくに切れてるはずなんだがね。」と医師。再び、図書館。「先生、彼女を何とか目覚めさせてください。」と松岡。カラスの鳴き声。「また例の絶息状態に陥らない前にです。」と松岡。「うん、やってはみるが、私の判断では、一時も早く専門医にみせた方が…。残念だが、私の手には負えんよ。」と医師の声。「先生、昨夜(ゆうべ)、彼女の体から何か抜け出したんです。文献を調べて、その正体が、おぼろげながら分かってきたんです。」と松岡。「君、いったいそれは、どう言うことだ?」と医師の声。カラスの鳴き声。「窓もドアもピッタリと閉めておけば、その物は外へ出られない。先生、ぼくが帰るまで、病室は完全に遮断しておいてください。お願いします。」と松岡。
 青空を飛ぶトンビ。その鳴き声。シンセサイザーの不思議な音楽。病室の白いカーテン。眠っていた恵子があえぎ始める。恵子の分身の視点となり、出口を探す。ドアが開く。{ 全然、遮断されてない病室 (ノд`) それとも、恵子の分身が特別な力で開けたのか??? } 階段を駆け上がる看護婦。{ やはり、ぱんちゅは見えない。 } 医師が降りてくる。「先生、恵子さんがまた…。」と看護婦。「何っ!」と医師。「それから、坂井さんの遺体が見つかりました。」と看護婦。「よしっ!」と医師。走り出す二人。海面のアップ。海に突き出した桟橋の上を走る、医師と看護婦。{ 何故か、坂井の遺体を優先した医師。 } 向こうから、担架を担いだ男たちと駐在。毛布をめくり、坂井の死に顔を見る医師。「こりゃひどい。」と医師。「しかし、どうしてこんなところに打ち上げられたんだろね。」と医師。「ど~も訳が分かりません。まあ、遺体が歩けば、話は別ですがね。」と西口。小林昭二が言うと、どうも陽気なギャグの香りが…。多分、重要な言葉を強調してしゃべるからだろう。 } 「うん。」と医師。何故か桟橋の上の病院車に遺体を乗せる男たち。桟橋の上を走る病院車。{ バックで移動する時、けっこう怖かったのでは。収容を急いでたのかも知れないが、不自然な気がする。 } カメラが引いて、波打ち際を写し、波の音が聞こえてくる。松岡の車が、病院車とスレ違う。ふり返る、運転席の松岡のアップ。病院車はトンネルに消える。CM。
 病室。松岡が来ている。「彼女が絶息したのは何時です?」と松岡。一瞬、ベッドの恵子を写すカメラ。「30分ほど前だ。ぼくが坂井くんの遺体をあらために出向く前のことだ。」と医師。また、一瞬、ベッドの恵子を写すカメラ。「坂井の遺体ですって? じゃ、さっきスレ違った病院車は…。」と、驚く松岡。「今日、合同慰霊祭があるとかで、駐在さん、ひどく急いでいて…。」と看護婦。「先生、ぼくと一緒に来てください。もしかしたら、病院車が危ない。」と松岡。病室を出る、松岡と医師。死んでるような恵子をクローズアップするカメラ。走る松岡の車。フロントガラスごしに二人を写すカメラ。静かだが、ざわざわと言う異様な音楽が聴こえる。「相沢さんと安さんの死は事故死じゃない。殺されたんです。」と松岡。「殺された? 誰に?」と医師。「あまりに不思議なことなので、まだ、ぼく自身も信じられません。昨夜(ゆうべ)、安さんが死んだ後、恵子にそっくりな白い人形のようなものが、恵子の身体に吸い込まれてゆくのを見たのです。それまで死んだようになってた恵子が生き返ったんです。信じられますか?」と松岡。{ 松岡は、恵子の分身を追ったが、それが本体に戻る瞬間は見ていないハズ。 } 「西洋の古代医学の文献に、魂が一時的に身体を借りてさまようと言う症状があるにはある。「幽体離脱症」と言うんだがね。しかし、現代において、そのようなことが起こるとは信じられんよ。」と医師。「でも、事実、見たんです。さっき、図書館で調べたんですが、もし恵子が、そういう特異体質者だったら…。坂井の死んだことを自分のせいにして、ひどく悩んでました。何とか、生き返らせてやりたい。その一念から、恵子の魂がさまよって、坂井の魂を呼び戻したのでは…。」と松岡。しだいに、カメラのピントがぼやける。異様な音楽が盛り上がる。道路の真ん中を歩く、恵子の分身。再び、運転席の松岡。「頭を砕かれて、正常でなくなっていた坂井の化け物は、悲惨な死に方をした死者がそうするように、周りの者を道連れにしようと、見境なく人殺しをしたのでは?」と、自らの推理をとつとつと話す松岡。{ ぶっ飛んでいるが、理解不能ではない。ホラー番組だし。 } 道路を歩く恵子の分身。病院車のドライバーのアップ。何かを発見し、急停車する。降りるドライバー。駐在も降りてくる。「どうしたって言うんだね。」と駐在。「いやぁそれが、今、急に女が前に飛び出したんですよ。」とドライバー。「誰もおらんじゃないか。しっかりしてくれよ!」と駐在。「変だなぁ。確かに今…。」と、乗車するドライバー。{ 地味な脇役の妙に素朴なやり取り。 } 病院車の後ろに乗り込んだ駐在は、ドアを閉めるが、何かを発見し、驚く。同時に病院車が発進する。幽霊のような恵子が乗っている。怖い音楽。「何だ君は。」と駐在のアップ。坂井にかぶせられた毛布をめくる恵子の分身。「何をするんだ。」と駐在のアップ。「何のマネだ、止めろ!」と、ビビる駐在。恵子の分身が、右のこめかみから血を流す坂井の肩をさすると、坂井の眼が開く。恐ろしい表情で、起き上がる坂井の遺体。「化け物め。」と、拳銃をかまえる駐在。が、坂井に首を締められ、苦しむ。黙って、下を向いている恵子の分身。一瞬、二人を見る恵子。「助けてくれ。」と、暴れる駐在。ドライバーが異変に気づくが、ガラスを割って手が伸び、ドライバーを襲う。蛇行運転する病院車。クラックションが鳴り出す。道路脇に落ちて停車する病院車。カラスの鳴き声。
 松岡の車。「何だ、あの音は?」と医師。「もしかしたら…。」と松岡。事故ってる病院車と、倒れている駐在、ドライバーを発見し、駆けつけるふたり。青空を飛ぶカラスの鳴き声。「これは事故死じゃない。絞め殺されてる。」と医師。「ぼくの想像が外れてくれれば良いと思ったんですが…。」と松岡。「早く警察に届けなければ。」と医師。「そんなことをしても誰が信じるんです? キチガイ扱いにされるだけでしょう。」と松岡。「それじゃ君、一体どうすれば良いんだね。」と医師。「災いの根を断つ他ありません。」と松岡のアップ。「それにぼく自身、どんなことがあっても、これを解決しなければ…。」と、悲壮な表情で遠くを見る松岡。砂地に付いた二人の足あとを追って走る、松岡と医師。風の音。カラスの鳴き声。走る二人。苦しそうな医師。{ 砂丘をつっ走る医師が、笑ってるように見えるのは気のせいか??? } 高台で、遠くを歩いている恵子の分身と坂井を発見する二人。{ ふたりは、夢みるように、どこまでも歩いてゆくのだ。死への旅立ちである。それが、坂井を選んだ恵子の目的地なのだ。恵子の分身が戻らなければ、やがて恵子の肉体は死ぬであろう。 } 恵子の分身と坂井がふり向く。青空を飛ぶトンビ。その鳴き声。坂井が向かってくる。「先生はここにいてください。そして、この奇妙な事件の証人になってください。」と松岡。「しかし、あのキチガイをどうやって君は…。」と医師。{ 強烈な違和感を感じるセリフ。ここは、「キチガイ」と言うより、「化け物」と言うべきでは??? } 「あいつのことより、問題は恵子です。」と松岡。坂井が向かってくる。ひとり走り出す松岡。{ ちなみに、和田浩治(通称:やんちゃガイ)の風貌は、仮面ライダーV3の風見志郎(宮内洋)をほうふつさせ、ひとりで決闘(説得)に向かう姿は、ヒーローものと見まごうカッコ良さである。 } 夕刻の太陽とオレンジの空。不気味な音楽。太陽の光を受けながら、向かってくる坂井。距離を置いて、止まる松岡。青空を舞うカラス。その鳴き声。一歩一歩、迫る坂井。{ もはや、日常の光景ではない。あの世って、こんな感じ???(見たことない)。 } 「恵子さん、聞くんだ。君が力を貸してるのは、坂井じゃない。頭の狂った恐ろしいキチガイだ。」と松岡。{ 「化け物」だってばっ ( ゚∀。) どうしても「キチガイ」と言いたいらしい (ノд`) } 迫る坂井の後ろから、松岡を見る恵子。「恵子さん、元の体へ戻るんだ。そうすれば、そいつは消える。坂井は、本当の坂井に戻れるんだよ。」と、太陽の光を受けながら、説得する松岡。迫る坂井。虚ろな表情で聞いている恵子の分身。「君は坂井を助けてるつもりかも知れない。だが、間違ってる。そいつは坂井じゃない!」と松岡。迫る坂井。「恵子さん。坂井のためを思うんだったら、早く、元の自分に戻るんだ!」と松岡。迫る坂井。青空と夕刻の雲。カラスの鳴き声。目前まで迫った坂井。「君は、かえって坂井を傷つけてる。これ以上、人殺しを繰り返させちゃいけない。分からないのか、恵子さん! 坂井を本当の坂井に戻してやるんだ。そして、坂井の魂を安らかに眠らせてやるんだよ!」と松岡。松岡に襲いかかり、首を締める坂井。抵抗する松岡。ふたりを見つめる恵子。「恵子さん、何故、君はぼくを選んだ。君は、どっちを愛してるんだ? ぼくか、坂井か?」と、必死で話す松岡。恵子の表情に変化が現れる。青空を飛ぶ無数のカラスの群れ。鳴き声。「君がぼくを選んだのは、愛してるからか? それとも、ぼくの将来性に目をつけたからか? さあ、もう一度選ぶんだ。ぼくか、坂井か?」と言って、意識を失う松岡。{ よみがえった坂井は、異常な力を持ってるようだ。 } 病室で眠っている恵子の顔が一瞬写る。青空と夕刻の雲。風の音。「恵子さん、選ぶんだ!」{ 恵子の心中に響く }松岡の声。一瞬だが、数回、挿入される病室で眠っている恵子。意識を失った松岡を砂地に突き飛ばす坂井。坂井が背を向けると、倒れた松岡の体から、青白い影が飛び出し、松岡の分身となる。しばしの無音状態。{ 不思議で、秀逸な演出。 } 再び闘う松岡の分身と坂井。パワーアップした松岡の分身のパンチで、ふっ飛ぶ坂井。後ろから組み付いて、締め落とす松岡の分身。意識を失う坂井。風の音。砂地の斜面を転がり落ちる坂井。砂に埋もれながら、意識を失う坂井。{ 捨て身の演技に脱帽してしまう。 } 風の音。崩れる砂。一人、遠くに歩いて行く恵子の分身。悲しく、それでいてやさしい音楽。{ 恐ろしい事件が終わったことを暗示する。 } 砂に埋もれて行く坂井。無言で去って行く恵子の分身。{ 恵子は、再び、松岡を選んだのだ。甘い死ではなく、辛い生を選んだのだ。 } 風の音。崩れる砂。
 継続する音楽。ブラインドの開いた明るい窓を写し、カメラが動いて、眠っている恵子をとらえる。{ 何故か、夕暮れの光ではない。 } 呼吸を始め、目を覚ます恵子。「よかった、気がついたのね。」と看護婦。{ ひどくリアリストなのだと思ってたが、これが、看護婦(死語)と言うものかっ (≧∇≦) } 花瓶の花を写してから、横たわる恵子をとらえるカメラ。{ カラスではなく、花なのだ。 } 「あたし、とっても怖い夢見てたの。」と恵子。起き上がり、「坂井さんが、松岡さんの首を…。」と言って、急に不安の色を浮かべる恵子。「松岡さんはどこ?」と恵子。{ いつの間にか、お化粧してるし (〃∇〃) 分身の顔はひどく虚ろで、それこそ幽霊のようであったが(見たことないけど)、目覚めた恵子の顔は、困惑しながらも美しい生の輝きにあふれて見える。これも、見事な演出だ。 }
 海岸沿いの道路を走る車。助手席の松岡を斜め後ろから写すカメラ。「事件を追いながら、ますます恵子にひかれてゆく自分を感じました。坂井を海に棄てた時、ぼくは、何か宿命的に恵子を愛してるのが分かっていたのかも知れません。同じ十字架を背負ったもの同志としてです。恵子のためにそうしなければいけないと、何かがぼくに命令したのです。」と松岡。{ やや回りくどいが、「坂井の死」と言う敵と、生涯、ふたりで闘わなければならなくなったと言う意味らしい。 } 海沿いの家などが写る。「ぼくたちみたいなカップルが、他にあるでしょうか?」と問う松岡。「あるかも知れない。」と答える医師。{ 色あせない恋愛というものは、本質的に存在しない。だが、同じ十字架を背負った時、ふたりは宿命的に、分かち難く結ばれる。そういうカップルがないとは限らない。 } 沿線のゴルフ場(?)が写る。「今まで、これほど強く、恵子を愛してると思ったことはありません。」と言って、座席に身体を預ける松岡。「眠りたまえ。診療所に着いたら起してあげるから。」と、微笑む医師。眠る松岡。エレクトリック・ギターの穏やかな音楽。
 継続する音楽。髪をとかす恵子のアップ。左手の薬指に指輪をしている。鏡の中に、微笑む松岡を見つける恵子。ふり返るが、松岡はいない。が、鏡の中には、松岡が微笑んでいる。しだいに明るい表情になる恵子。「鏡の中の幸せ。でも…。」と独白し、笑う恵子。{ 物語の最後に鏡を見る恵子は美しい。坂井の死やその後の凄惨な事件という重い十字架を背負い、もはや幸せな未来はないだろう。 } 鏡の中で、キスをする松岡と恵子。{ でも、宿命的に結ばれた松岡がいてくれるのだ。 } 肩を組み、歩き出すふたり。画面が白くぼやける。猫のエンドクレジット。
 ひとり、イスに座る青島幸男。「最後に女が言いましたね。鏡の中の幸せ、鏡の中の幸せ。何の事か、お分かりになりましたね。まあ、同じ運命をしょわされた者同士の、まあ、幽体同士の結びつき。悲しくもあり、また、幸せなことかも知れませんね。」 次第に引いて行くカメラ。手には、頭蓋骨を持っている青島。手前に、大きく、白煙を吐く青いグラスが写る。「信じましょう。だまされている方がですね、だまして、後々、苦しむより、ずっと幸せが多いかも知れません。」 { 何を信じましょうと言うのか??? この作品にだまされてくれと言われたようで、意味が分からなくなる。 } 「ではまた。」 暗転。


ツッコミどころ

  • 松岡が自分のことを「あたし」と呼んでる。男なのに。が、恵子や医師としゃべる時は、「ぼく」と言ってた。何故、使い分けるのか??? 本作の最大の謎である。
  • 蘇った坂井のメイクは、顔色や流れ出てる血の質感がイマイチで、普通のケガ人にしか見えないのだが、力演する六本木誠人の尋常ではない眼差しに救われていた。
  • よみがえった坂井に殺された、とぼけた表情の相沢、ヒゲの安、いかにもひなびた駐在、やはりとぼけたドライバーが、それぞれに味わい深く、憐れを誘う (ノд`)
  • 目撃者の男が激しく台詞棒読みだったが、佐々木昭一郎のドラマみたいで、逆にリアリティを感じなくもなかった。
  • 「チュー公」と言うハツカネズミの名前は、ありがちな気がする。ちなみに『ウルトラセブン』『地底GO! GO! GO!』のハツカネズミは「チュー吉」。
  • 幽体離脱の特撮がすごい。本体が残ってるので、ふたりになるのだが、そのカラクリが分からない。

わたにゃんが感情移入した人物

 坂井に少しだけ移入したかも。とくに、最後に砂に埋まってゆく場面。でも、最近は、重い恋愛をする意欲も無いので、傍観者に近かったのがホント。


ふと思ったこと (*´∀`)

 生と死の境界がほころびる時、しばしば傑作が生まれるのだが、まさに本作はそれである (≧∇≦)
 かつて、女優のシャーロット・ランプリングが、ふたりの男と同棲を始めてスキャンダルになったらしいが、3人で夫婦になると言う選択肢はなかったのであろうか??? 少なくとも、この作品が作られた70年前後には、あり得なかったのだろう。もっとも、そうなっては、この物語は生まれないのだが… ( ゚∀。)
 昨今の歌は、ありふれた出会いをすぐに「キセキ」だと言うので、かなりイライラするが、本当に奇跡のような出会いは、もっと厳粛で、かつ宿命的ですらあるのではないだろうか。画家のエドヴァルト・ムンクは言っている。「ごくわずかな人びとだけだ おそるべき焔のなかで出合うのは ─ その焔のなかで彼ら二人は 完全に一体となれるのだ」(訳:粟津則雄) まさに、この作品のためにあるような言葉だと思う (〃ノ∇ノ)


  Ver. 0.401 2014年02月22日15時51分頃、完了。


 ご意見、ご感想は watahme@momonahn.egoism.jp まで(メールアドレスは半角で)。