帰ってきたウルトラマン
第32話
落日の決闘 (核心)


1971年11月12日放送 円谷プロダクション制作
監督:大木淳 脚本:千束北男
出演:浜村純、松原和仁、谷村昌彦、団次郎、根上淳、三井恒、池田駿介、桂木美加、ほか

六根清浄、六根清浄…。


浜村純の「心温まる怪演」
(まじめにレヴュー:{}内は、わたにゃんの解釈)

 「電車で行くんですか?」と、私服の郷秀樹(団次郎)のアップ。作戦室である。「そうだ。竜神岳方面の頻発地震は、まだ怪獣の仕業と決まった訳ではない。そこへ我々がMATでございと乗り込んでみろ、現地の人をいたずらに不安に駆り立てるだけじゃないか。」と伊吹(根上淳)隊長。地震が頻発する竜神岳方面に、私服で調査に向かう郷、南(池田駿介)、上野(三井恒)隊員。何故か、ヒッピーに扮した上野に落ち着きがない。丘(桂木美加)隊員から、ラブレターみたいな、おそらく地図をもらい、口にくわえてから、カバンに入れ、「行ってきます。」と頭を下げる。{ 何か面白いことになりそうだと予感させる秀逸なオープニング。 }
 田舎の風景。のどかな音楽。ラッパを吹きながら、野原太郎(松原和仁)少年登場。ヤギをひっぱたき、牛をおどかして追い回す。あげくに、道を尋ねたドライブ中のアベックにウソを教える。{ 何気に、時代がかったアベックが味わい深い。しかし、階段を落ちゆくミニチュアの車がチャチい。さすがに、予算が足りなかったか (・∀・) }
 「いや、ほんとに申し訳ございません。いやもうまったく、あの野郎のイタズラには、もう親の私でさえね、あきれ返ってる始末でして (´Д`;A) 」と弁解する野原作太(谷村昌彦)。別荘を買ったおばはんが、作太の息子、太郎のイタズラに怒っているのだ。おばはんの息子が、太郎に夏休みの昆虫採集を任せたら、集めたのが馬糞の虫だったので、学校で恥をかいたらしい。外にいる初老の駐在さん(浜村純)が空を見あげると、遠くに地震の音。{ 駐在さんは何歳なんだろう??? 出演時、浜村純は65歳である。 } で、地震の多いことも、おばはんの不満なのだ。その時、太郎が帰ってくるが、{ 腹芸で、 }逃げろ逃げろと合図する駐在さん。「はゃ、来ます、来ます、中っくらいのヤツが来ます!」と駐在さん。また、地震。「分かるんですよ私、ね、霊感ってヤツですかねぇ。」 小石が落ちてきて、「あいたっ。」と駐在さん。「選り抜きの文化的環境が聞いてあきれるわよ。本当に。」と吐き捨て、立ち去るおばはん。作太に、太郎の新たなイタズラを報告する駐在さん。そこへ、郷登場。作太を訪ねてきたのだ。去る駐在さん。
 神社の石段で、太郎に説教する駐在さん。「こんなことばかりやっとると、お前、本当にワシのやっかいになるような人間になってしまうぢょ。お前、いったい何だって、こんな悪たれになったんだ。」と駐在さん。「お前、誰かに何か言われたんじゃないのか。」 「何かって?」 「その、何かさ。」 「じゃあ、やっぱり。」 「やっぱり、どうした。」 「やっぱり、本当なんだね。あの話。」 「あの話?」 「本当の父ちゃんの話さ、オレの。」 苦い顔をする駐在さん。{ 遠まわしに話しつつ、分かり合ってるのが良い。日本人的なのかも知れない。駐在さんの老獪(ろうかい)な演技も素晴らしいが、太郎の演技が侮れない。何だって、こんなに上手いんだ??? とくに、眼と言うか表情の輝きが良い。 }
 地震の原因は怪獣かも知れないと、作太に説明する郷。かつての竜神トンネルの事故の原因は地滑りだと主張し、怪獣の存在が信じられない作太。トンネル工事の回想シーン(モノクロ)。山の両側から堀って、開通直前、岩盤越しに名乗り合った、反対側から掘って来た男と作太。「家には、べっぴんの母ちゃんと、生まれたばかりの男の子がおるんじゃ。」と反対側の男。{ 「べっぴんの」と言う箇所は、実は、よく聴き取れない。その前に言ってることは、全く聴き取れない。「べっぴん」だったから誘惑も多く、子供を捨てて逃げたと解釈するわたにゃん。 } 「ワシはな、野原作太、34歳だあ。」 すると隣りの仲間が「母ちゃんはおったんじゃが、逃げられてしもうた~。」と言い、爆笑の渦となる。その直後、事故が起こり、崩れるトンネル。そして、濁流。{ 事故の恐ろしさを描いたシリアスな特撮が作品全体を引き締めている。モノクロなのも効果絶大。『怪奇大作戦』の『霧の童話』の鉄砲水のシーンもモノクロだった。 }
 再び、駐在さんと太郎。「そうか、お前、知ってたのか。」 「オレの母ちゃん、それから、オレを捨てて、東京へ行っちゃったんだってね。」 「トンネルの中で名乗りあった男同士だってことで、お前の父ちゃんは、まだ赤ん坊のお前を引き取ってな (ノд`) 今日まで…。太郎、父ちゃんは、お前がそんなことを知ってるなんてことは (ノд`) 」 ほとんど涙声の駐在さん。「そうさ、そこがオレのツラいとこなんだよ。な、駐在さん。そう泣くなよ、駐在さん。」と太郎。{ シナリオが良いなあ。太郎の強さをさり気なく書いている。 }
 森の中で、マットビハイクルの伊吹、丘と合流する郷、南。「くれぐれも一般の人たちにMAT隊員であることを知られないように。」と{ 妙に楽しそうな }伊吹。「隊長、それにしても、上野隊員はどうしちゃったんでしょう?」と{ くだけたセリフで、ボケる }丘。懐中電灯をつけ、「六根清浄、六根清浄…。」と、うわ言のように唱え、フラフラと墓場を歩く上野。ふくろうが鳴いている。{ わたにゃんは、上野に何が起ったのか、よく分からず、怪獣の出すガスなどを吸ったのかと想像していたが、単に、道に迷っただけと言うのが定説のようだ。だが、薬をやっているようにしか見えないと言う意見も多い。もしかしたら、ヒッピーのカッコをしてたので、売人に薬を売りつけられ、ついつい試してみたのかも知れない。十分に考えられるシチュエーションである ( ゚∀。) }
 郷と歩く、ハンターに変装した駐在さん。見事に変装したつもりの駐在さんだったが、すれ違った地元のおばさんに「のお、ちゅうぜいさん。」と呼ばれ、バレバレである。「いけませんね。」と楽しそうに笑う郷。駐在さんも踊るように歩いてゆく。{ おばさんが訛ってるのが最高。この辺り、演出に遊び心満載の「余裕」を感じる。郷の演技も実に自然だ。 }
 調査の結果、地震の原因が巨大生物であったことを無線で報告する南。森の中のビハイクルを見つけ、通信を盗み聞きする太郎。震源の竜神トンネル付近で、巨大生物が目覚めつつあるようだ。竜神トンネル方面に向かうと告げる南。{ 上野とは対照的に、的確に任務をこなす南。 }
 一足先に、竜神トンネルを調査する郷と駐在さん。{ 向こう側の山が見える、あまり長くないトンネルだ。 } トンネルの中で、「あ、はっ、来ます来ます!」と駐在さん。「どうしました?」 「地震が来ます! 地震が来ます!」 本当に地震が来る。「へぇ、不思議な人ですね、あなた。地震の予知能力があるんですか。」と郷。「妙なんですよ。人よりほんの2、3秒早く感じるだけです。臆病だからですよ、きっと。」と駐在さん。トンネル内で、大きな亀裂を見つけ、中に入って調べる郷。「大きなのが来そうだなと思ったら、大声で呼んでください。頼みましたよ。」と郷。「じょ、冗談じゃありませんよ! そんな責任重大な、あんたっ。」と駐在さん。だが、奥に進む郷。「弱ったな、弱ったな、こりゃ。」 { この辺りの駐在さんの表情が良い。子供へのサーヴィスかもしれないが、ノリまくっている。まさに、笑える怪優、浜村純の心温まる怪演 (≧∇≦) ほどなく、南登場。亀裂の奥で、氷に包まれた変幻怪獣キングマイマイ(劇中では、未呼称)を見つける郷。「来るぞ~、大きいのが!」と叫ぶ駐在さん。{ 地鳴りがしてから、来るぞと言ってるが、駐在さんだけに聞こえた地鳴りだろうか??? } 南も一緒に叫ぶ。だが、逃げ遅れ、生き埋めになる郷。助けようとする南だが、大きいのが来ると言う駐在さんに、トンネルの外にひっぱり出されてしまう。土砂に埋もれながら、無線で「竜神トンネルに怪獣発見!」と伊吹に報告する郷。ビハイクルの天井に乗った太郎に気づかない伊吹と丘。CM。
 のどかな音楽。天井に太郎を乗せ、走る迷彩ビハイクル。{ 花を踏みにじって、道なき道を走っている。ささやかな自然破壊の香り。 } 「父ちゃん、かたき討ちしてやるぞ。」と太郎。{ 太郎は、怪獣のせいで実の父が死んだと、信じているのだ。太郎の足がルームミラーに写ってるハズだが、伊吹が全く気づかないのが痛快だ。 } 山が崩れ、怪獣出現。驚く、別荘のおばはん。{ この人も怪優っぽい。 } 攻撃するビハイクル。オナラで反撃する怪獣。とうもろこしを投げる太郎。バズーカ砲で攻撃する南。{ ビハイクルや南を襲う爆発は、本物っぽい。ささやかな自然破壊の香り。 } 亀裂の奥で、意識を失ってる郷。怪獣の前に、「ああ、ああ。」と酔ったように現れる上野だが、巨大な腕で跳ね飛ばされる。宙を舞う上野。空を指さして、「隊長、上野隊員です。」と丘。{ 上野をネタに痛烈にボケてみせる丘隊員は、まるで、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の中川である。子供は、上野の荒唐無稽なギャグを楽しめば良いのだが(怪しすぎて怖いが…)、大人は、丘の「さりげない技」を楽しみたい。 } 確認する伊吹。{ これは、一種のツッコミか??? } 上野のリュックが落ちて、妙な音で爆発し、怪獣の右腕を吹き飛ばす。「やった、やった。」と、飛行しながら、虚ろに手を叩く上野。{ 何かがおかしい。特撮の世界のリアリティーを超えている。そもそも、上野の顔つきからしておかしい。本作における、三井恒の「解釈不能な怪演」は、ひとり歩きしているようだ ( ゚∀。)
 再び、南とビハイクルの攻撃。死んだ眼になり、反撃しなくなる怪獣。「うわぁ、やった。」と、とうもろこしをちぎる太郎。「やった。」と南。ビハイクルに駆けより、「隊長、やりましたね。」と南。無視する伊吹。「どうしたんです、隊長?」と丘。「丘くん、我々はまだ勝ってない。」 「え?」と南。{ 何故か、会話が乱れてる。伊吹は、丘くんとだけ話したいようだ。ちなみに、わたにゃんも、女子を「~くん」と言うのが好き (≧∇≦) } 「ヤツの心臓はまだ動いてる。見てごらん。」と、計器(?)を見せ、「ヤツはまだ生きている、油断するな。」と伊吹。
 トンネルの亀裂に入る太郎。気を失ってる郷を見つけ、ラッパを吹いて起こす。その時、氷壁が崩れ落ち、坑夫たちの凍死体を見る郷と太郎。{ 工夫たちの凍死体がシュールなダイオラマ(ジオラマ)のように見える。一瞬に凍りついたのだろうか??? } ひとりの男のアップ。「父さん、父さん!」と太郎。{ この瞬間、太郎の心の中で、実の父は「死んだ」のかもしれない。しかし、その凍死体、青い顔と生きてる眼が恐すぎる (ノд`) } だが、崩れてきた氷片の下敷きになるふたり。
 日没。{ セミが鳴くような、シュールなサウンドとともに }脱皮する怪獣。変身する郷。{ 掟破りの }等身大ウルトラマンは、太郎を運び出し、駐在さんと作太にあずける。{ と言うか、落としていく。 } トンネルを抜け、巨大化するウルトラマン。いきなり、スペシウム光線。よけられる。{ 何やってんだか ( ゚∀。) また、掟破り。 } 格闘するウルトラマンと怪獣。瀕死の怪獣。{ 有翼怪獣の翼は、たいてい、破壊されるためにある。 } 大きな夕陽。スペシウム光線でとどめを刺そうとするが、倒れる怪獣。怪獣の手を組み合わせ、飛び去ろうとすると、起き上がった怪獣に、細い糸を含む霧を浴びせられる。動けなくなるウルトラマン。怪しい音楽。沈む寸前の太陽と赤く点滅するカラータイマーが重なる。{ お約束のナレーション(名古屋章)、今回はナシ。またまた、掟破り??? } 高速回転して糸を払いのけ、ブレスレットを呑み込ませて、内部から破壊。一瞬に炎上する怪獣。太陽は沈み、飛び去るウルトラマン。
 太郎の実の父、大林彦太の墓参りをする太郎、作太、郷、伊吹、駐在さん。「父ちゃん、見たかったろうな、青空が。」と太郎。「太郎。これからオラのことを何と呼んでくれるんだ?」と作太。太郎は「やっぱり…。やっぱり、父ちゃんさ。」と答える。喜ぶ作太。感動する駐在さん。{ 不条理の具現である怪獣が倒され、実の父の死も受け入れたことによって、新しい父の作太を認めることができたのかしら。作太が、やや頼りないが、駐在さんも手伝って、上手くやってゆく気がする。 }
 迷彩を解いた(?)白いビハイクルが走る。逆さに木に吊るされてた上野。南が投げた黒い帽子を拾い、かなりのオーバーアクションで、ビハイクルを追いかける。{ 今回の上野の行動に「寓意」を探ってはいけないのかも知れない。別荘のおばはんと同じような役割なのだ。『この怪獣は俺が殺る』(第22話)に出てきたピエロのように、意味がありそうで、意味がない存在。誤解を恐れずにもっと言えば、「普遍的な無意味さ」となる。←ホントかよ }
 ヤギに草を食べさせる、優しくなった太郎。{ 素朴だが、素敵すぎるラストシーン。 }


ツッコミどころ

  • 結局、トンネル工事の時の事故は、怪獣のせいだったのだろうか???
  • 浜村純は、大泉滉のように明らさまに怪人なのではなく、一見、普通の爺さんに見えるところが侮れないのだ。
  • わざと妙なことをしてるので、今回はツッコミにくい ( ゚∀。)

わたにゃんが感情移入した人物

 特にナシ。でも、優柔不断なところが、作太に似てるかも。カッコ良いと思えない人物には、感情移入し難い。


ふと思ったこと (*´∀`)

 本当の父ちゃんが死んで、母ちゃんには捨てられた太郎の屈折は、本人でなければ分かりにくいであろう。本作は、子供向けのようで、実は、厳しく、不条理な大人の世界を垣間見せている気がする。とは言え、浜村純の子供への愛情に満ちた「心温まる怪演」を軸に、これでもかとギャグをちりばめた、贅沢な味わいの一本だ。後に「11月の傑作群」と呼ばれた本作と『悪魔と天使の間に‥‥』と『怪獣使いと少年』には、いずれも素晴らしい子役が登場するが、その演出の充実っぷりがすごい。
 寺山修司が脚本を書いた『初恋・地獄篇』(1968年)にも、似たような境遇の(成人に近い)男の子が出てきて、やはり屈折してるのだが、全然、別の性格である。


  Ver. 0.20 2011年06月21日27時17分頃、完了。


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